【藤光謙司選手インタビュー】Part.1「安定感という武器」

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2015年日本選手権200m。スーパー高校生、100mアジア大会銅メダリストらが顔を揃えた注目のレース。勝ったのは藤光謙司選手でした。その後、日本歴代2位のタイムを出し、世界陸上で準決勝に進出。ダイヤモンドリーグへの出走も経験しました。

世界を主戦場とする藤光選手への4つのテーマで話を聞きました。最初のテーマは、「安定感という武器」について。2015シーズン、国内外問わず驚異的なアベレージを残した藤光選手に、安定感を”武器”にまで昇華させてきたプロセスに迫ります。

Part.2「長く活躍するために残したもの、捨てたもの」

Part.3「on the track-フォームの変遷-」

Part.4「off the track」

(2015年11月12日/日本大学文理学部陸上競技場)


 

ー今期、非常にレベルの高い記録を安定して残されました。20.13を筆頭に、20.28、20.32、20.33、20.34、20.37。高いレベルで安定した要因は、どう分析されていらっしゃいますか?

藤光選手
一番の要因は自分の体のことであったり、使い方であったり、特徴であったりが、今になってやっとわかってきたことですね。ようやく使いこなせるようになってきたと感じていて。強く感じたのが一昨年のシーズンの最終レース、国体です。

2013年東京国体成年男子100m決勝。藤光選手は6レーン。10.56(-1.7)で5位だった

 

成年少年男子共通4×100mリレー決勝。5レーン埼玉チームのアンカーとして、先行する愛知と静岡をかわし、優勝を飾った
藤光選手
国体の時期(毎年10月上旬)って、シーズンの疲れもだいぶ溜まっていて、万全で迎えられることは多くはないので、(残った力を)振り絞って試合に出ることが多くて。正直使えない身体の部分があったり、「今日はここの動きが悪かったな」とかその日によってあると思うんです。

疲れが顕著に出た中でも、調子の悪い部分をカバーして走れる感覚が自分の中であって。走り自体は、端から見たら変わっていないように見えてると思うんですけど。「今ここが使えないから、違う部分を使ってスムーズに走ろう」とか、「予選・準決・決勝と、感覚的には全く違う走り方やレースの組み立てができるな」ということを試合の中で試すことができたんで、こういう走り方もこういう組み立てもできるんだなと感じて。国体はひとつきっかけになったレースで、洗練されてきたとは思っています。

シーズンを通して体がずっと同じ状態っていうのはありえなくて、少しずつ変化しますし、調子の良し悪しもありますし、疲労もあります。そういった状況で、その時に合った身体の使い方ができたレースだったのかなと思っています。

ーそれは特定の部位を意識しながらできることなんですか?例えば、ふくらはぎが痛いのであれば大腿部を意識するであったり。

藤光選手
僕の場合は股関節周りと内転筋に不具合が出ることが多くて。実際はその部位を使わないと走れないのは確かなんですけど、意識して使おうとしないというか。言葉として伝えるのが難しいところはあるんですけど使っているんだけど使わないように意識的にすることで、感覚的に使っていないようにしているというか、負荷をかけないようにしている感覚です。

ーある意味、常にレースで100%の力を出し切る、というわけではないのでしょうか?

藤光選手
そうですね、もちろん体が万全であれば、その時に100%の力を出すレースをするかもしれないんですけど、その時に応じた体の使い方も必要です。同じタイムだったとしても同じ内容のレースって無くて、毎回違う走り方が自分の中にはあるので、試しながらやっていたというのは、今年はものすごくありましたね。

レースパターン自体もそうですし、走り方自体もそうです。どういう感覚でどういう風に走ったらどれくらいのタイムが出るのか、を試していたと。その中でも記録は安定していたことが自信につながりましたし、今の自分の力の確認にもなりました。大きく何かを変えたわけではなく、今があるのは継続的に取り組んできたものがようやくまとまって、完成形に近づいて、結果として現れてきたのかなと思います。

ーこれまで取り組んでこられたことは、ある程度何年か先を見据えての事なんでしょうか?例えば、リオオリンピック。

藤光選手
そうですね、トレーニング計画はオリンピックサイクルで考えて、毎回合わせてはいます。まあ、僕はまだ一度もオリンピックを経験していないって状況なんですけど笑。
高校の時はまだ1シーズン1シーズンという気持ちの方が強かったですし、大学も入りたての頃は、そのシーズンを頑張るって気持ちが強かったですね。大学の後半に入ってからは、コーチの意向や、僕もいろいろ理解してきた部分もあって、長期的にプランニングした方がいいのかなって思いだして、先を見据えるトレーニングをそのころから始めました。
ートレーニングは走ることの他に、メンタル面でも何か取り組まれていますか?

藤光選手
メンタルに関してのトレーニングは特にはしてないですね。何かを思い込むとか、試合で緊張しないようにっていう事に対しての特別なトレーニングはなくて。一番のメンタルトレーニングは、「自信」と「準備」ですね。
自分の目標の試合に向けて、思うようにトレーニングができていて、体の「準備」がしっかりできていて、「自信」を持って試合を迎えるっていうのが、一番メンタル的には前向きに迎えられる要因かなと思っています。その日のメンタルがどうとかではなくて、それまでにどうだったかっていう過程がすごく大事だと思ってるんで。
僕、一週間ぐらい前には、試合結果ってもう決まってるんじゃないかなって思ってるんです。トレーニング自体は一週間くらいでは何しても大して変わらないかなと思いますし。それまでに何ができたかがすごく大事で、「自信」をつけた状態で試合を迎えること事が、メンタル的にプラスなのかなと思っています。

ーメンタルトレーニングに取り組まれる選手もいると思います。藤光選手は事前にトレーニング面で納得できる状態を作る事が、メンタル的にプラスにつながるという考えでしょうか?

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藤光選手
メンタルトレーニングがどういうものかは正直よくわからないのですが、僕はあまり決め事を作りたくないっていうのが正直あって。そういうものがあると、もし出来なかった時に「だめだ」と試合の時に感じたくなくて、ジンクスのようなものはあまり作らないようにしています。

ー今話題になっている、ルーティーンのようなものとは真逆の考え方でしょうか?

藤光選手
ルーティーンを作らないというルーティーンがあるっていう感じですかね。多分意識的にやってないだけで、やってる事はもちろんあると思うんですけど、あんまり変に意識しないでやってるって感じですかね。ルーティーンみたいなものを作ったとして、やれなかった時に気にするのが嫌なんですよ。

ー力を出し切るということで言うと、藤光選手は海外のレースや、世界陸上のような大舞台でも記録をしっかり残されているという印象があります。要因はどう分析されていらっしゃいますか?

藤光選手
僕は昔から海外に行って記録を残せないって事があまりないので、感覚的にはわからないというか。海外の試合の方が高揚するところがあって、雰囲気が日本の試合に比べると賑やかで、会場も湧いていたりお客さんの力ももらえて、気持ち良く走れるということがあります。

日本の試合だと頭の端っこの方で、メディアの目を気にしてしまったり、自分が負けた時に記録を残せなかった時の事を考えてしまって、「変なレースはできない」っていう想いがどこかにあるかなと。捨てるレースを作れないというか、トレーニングの一環として試合に出ても、それは記録に残ってしまうので、メディアには大した記録ではないという風に残ってしまうので、気持ち良く走れない部分があるなと思います。

海外のレースでは、それがゼロではないですけど、国内のレースに比べると少なくて気持ち良く走れるので、プレッシャーを感じず走りやすい部分が大きいので、特に海外だから実力が発揮できないっていう事はないですね。

「国内では捨てるレースを作れない」という言葉がありました。例えば東日本実業団200mはおそらくきっちり合わせきってはいない中で、高瀬選手が好記録をマークしました。そういう時、周りからネガティブな視線が向けられることは、一つのマイナス要因でしょうか?

藤光選手
僕は完全にトレーニングの一環という形で位置づけていた東日本なんですが、目の前で一緒に走ったレースでああいう記録(優勝した高瀬慧選手が、20.14をマーク)を出されたら、力の差という捉え方をされてしまうとは思うんですよね。

東日本実業団選手権200m決勝。藤光選手は8レーン。20.14(+1.0)の高瀬選手に続いて、20.35でゴール


藤光選手
必ずしもプラスではない捉えられ方ですし、僕よりも桐生(祥秀選手・東洋大2年)だったり、記録を求められている選手の方がより感じるかもしれないですね。そういう部分を比べると海外のレースの方がゆとりを持って走れるというのはあります。

それと、国内のレースでいくら記録を残したところで、大きな国際レースでは全く活きてこないということはすごく感じました。やっぱり国内の試合じゃないと記録が出ないってみんな考えていると思うんですけど、そういう気持ちの捉え方をしないで、どちらかというと海外のレースに照準を合わせるという気持ちの方が強いところがあるので。結構気持ちの問題だと思うんですけどね。結局、海外だから記録がでないだろうとか、時差がどうとか、疲れや移動がどうとか、多分言い訳なんですよね。

ー勢い込んで海外レースに臨むというより、自然体で臨まれているのかなと感じます。

藤光選手
特別に何か心の準備をしていくというよりは、本当に一つの試合、という形でいっています。海外のトップ選手が出る大会で走り続けるという事がすごく大事で。
その事が普通になるって事が僕にとって必要な事だと感じたので、自然体で、国内のレースと同じ感じで臨めることが一番かなと思います。
ー藤光選手は、”緊張”する事はあるんですか?

藤光選手
しないことはないですね。一番緊張するのは日本選手権なんですけど。やっぱりどんなに自信があったり調子が良くても、代表が決まるまでは独特な緊張があるので、あの試合だけは何回やっても、変な緊張感があるというか、特別な空気感があります。でも基本的には試合で緊張することはあんまりないですね。

いつもの普段の自分のままで走るというのが自分のスタイルかなと思うので、変に入れ込まないというか。いつも通り普通に、というのが僕のスタイルなので、そういう感じで試合は迎えていると思います。

ー先ほど、「一週間前には結果が決まっている」というお話がありました。レースに出たらもう体を動かすだけ、という感覚に近いのでしょうか?

藤光選手
そうですね、試合当日に何かしたところでもう何も変わらないと思っています。その時にある自分の力を出すだけなので。試合の日にどうにかしようと思うと、緊張が生まれてしまう。「どうせ試合の結果はもう決まっているし、あとは走るだけ」っていうくらいの少しラフな気持ちで、試合を迎えているかもしれません。

ーそういった心境になられたのはいつぐらいからですか?

藤光選手
大学の終わりくらいじゃないですかね。僕、ケガも多かったので色々考えるところもあって。そうして思考錯誤したり自分で考えた結果、最終的になんとなく辿り着いてきたのかなと感じますね。特に大学四年の時が北京オリンピックの年だったというのもあって、その頃にようやく固まってきたのかなという感覚はあります。

ーもし、10年前のご自身に会って、「こういう風にやっているよ」と話したら、ご理解されると思いますか?

藤光選手
多分理解できなかったと思いますし、やれと言われてもできなかったと思います。それは今まで取り組んできて、自分の体を知ってきて、ようやくそこまで辿り着けたところだと思うので、確実にこれまでの経験というのは必要で。練習の中だけではできない経験だったり感覚というのが大きいのかなと思うので、意識的に取り組まないとできない部分も多いです。いろんな経験とデータが積み重なって、自分を知る材料とするには、ある程度年数も必要なので。もしかしたら10年前からその気持ちで取り組んでたら、もっと早い段階で自分の体が知れて、自分の体を思うようにできたかもっていうのはあるかもしれないですけど、今までの過程があったからこそ今があると思っています。
当時はいろんな寄り道をしたって気持ちはありましたけど、それがあってこその今でもあって、時間をかけてやるのが自分のスタイルなのかなと思いますね。

 

藤光選手が語る安定感、いかがでしたか。Part.2「長く活躍するために残したもの、捨てたもの」へ続きます。




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