【藤光謙司選手インタビュー】Part.2「長く活躍するために捨てたもの、残したもの」

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藤光選手へのインタビュー。2つ目のテーマは、「長く活躍するために捨てたもの、残したもの」。高校2年生でインターハイ100mで3位、200mで2位に入って以降、トップであり続けている藤光選手。「今がいちばん肉体が成熟している」と話す藤光選手に、長きに渡り活躍するための秘訣を聞きました。

Part.1「安定感という武器」

Part.3「on the track-フォームの変遷-」

Part.4「off the track」


ー高校・大学・社会人と、何を変え、何を変えなかったのかお聞きしたいと思います。2003年,2007年,2010年,2015年と4,5年周期で結果を残されています。それぞれ、好記録の予兆があったのでしょうか。
藤光選手
もちろん毎年毎年、次の年に記録を残そうという取り組みはやっているのですが、去年に関しては大きく取り組みを変えている部分はそんなにないですね。毎年ベースは変わらないというか。同じようなトレーニングはずっと取り組んでいて、今年はここを中心にやってみようかな、とスパイスを加える程度ということが多くて。

ここ2,3年は、ヘルニアの影響でウェイトができなかったんです。現状を確かめるということでMRIを撮ってみたらだいぶ治っていて。冬季練習では、少しずつウェイトも始めました。同じことをこれまで通りやってしまうと、また症状がぶり返すと考え、自体重と同じ重さで、それ以上の重さは持たないというウェイトトレーニング。これまでは週に2回、レストの前日にウェイトをやっていたのですが、今年に関してはやれる日は全てやると。週に5日トレーニングなら週に4日くらいはウェイトを行いました。補強的なトレーニングで、筋肉を刺激してあげるという意味が大きいのですが。

重さよりも頻度を上げて使うということを重しています。重いものを上げることが、必ずしも走りに繋がるかというとわからない部分もありますし、ぼくはそんなに筋量を増やして走るようなタイプではないですし、今あるものを刺激してあげることが大事なのかな、ということをだいぶ前から考えてきました。自分の身体のことがよりわかってきて、使えるようになってきたのが大きかった、と思いますね。

ーこの冬季も方向性は同様なんでしょうか。

藤光選手
そうですね、ベースは決まっていて、その日に合わせたトレーニングしか僕はしないので。高校時代からそうで、高校が自主性を大事にする環境でした。冬のトレーニングも全部学生たちで考えて、顧問に提出するというスタイル。そのころから自分のやりたいことやと考えてやるといったことの基礎的なところができていたのかな、と思います。

ー市立浦和高校のご出身。

藤光選手
はい、そういうスタイルでやっている高校はあまりないみたいですね。ぼくらはそれが普通だと思ってやっていました。なにかあった時に自分でなんとかするという基礎ができたと思います。

僕、食事もその日食べたいと思ったものを食べたりするんです。トレーニングも同じように、その日その場で、やりたいこと自分の体にあったことをしていて。普通はトレーニングって、「この日はこのメニューをやる」って決めていくことが多いと思うんです。でも、決めていってもその日の体調自体は読めないじゃないですか。そのトレーニングがその日の体調に合っているかわからない時って、あると思うんですよ。なので、その日の体調でできるトレーニングしかしないようにして、動いてみて自分の体調を確認してメニューを決めるんですよ。

最近は一人でやっているということもあって、他人に合わせることがないんで、すごく好きにできているというか。人とやっていたら、急にメニュー変えますよと言ったら迷惑掛かりますし笑。その日その場に合わせたトレーニングができていることは大きいですね。

ー高校1,2年で劇的に記録が伸びていますが、当時からご自身でメニューは発案されてらしたんですか。

藤光選手
高校に入って1年目は、とりあえず高校の練習をやることが多かったです。割とすぐ伸びて、毎試合ベストが出る状態でした。その結果で合同合宿に呼んでもらえるようになって、いろんな意見を収集できるようになって。他のコーチの考え方やトレーニング方法を収集すればするほど、さらに考えるようになりました。あらゆるものに関してすごく考えるようになったのは、そのころからですかね。

ー社会人になられてからは、2010年に20.38を出されていますが、この時と今とで練習への取り組み方、変化はあるんでしょうか。

藤光選手
今年の日本選手権と似たようなタイムではあるんですけど、内容が違います。同じ20.3台でも、あの時は「出てしまった20.3台」で、今は出すべくして出した20.3台です。当時は自分の体が制御できなくて、どう使っていいかもわからなくて、なんか調子がいいだけ、みたいな状態だったんです。体調だけ合わせて調子がいい状態で臨んで、とりあえず走ったらタイム出ちゃった、みたいな感じだったんですけど、今は自分の思考も付いてきて、いろいろわかっている状態で出しているタイムなので、中身がぜんぜん違うな、と思いますね。

ートレーニングもブラッシュアップされ続けているかと思うんですが、ずっと続けていること、もしくは毎年毎年変えていることあれば、教えてもらえますか。

藤光選手
そうですね、欠かさず冬季にやっているのはサーキットトレーニングですね。もう欠かさず、です。学生は結構やると思うんですが、ベテランになってくると無駄なものを排除していく中で、サーキットって省かれることが多いと思うんです。でも、基礎的な部分てめちゃくちゃ重要で、基本的な柱はつくらなきゃいけない、と。冬季練習開始するときは、2日に一回とかサーキットやるんですよ。基礎作りでサーキットのような、泥臭い練習をやる選手が少なくなってきて。でもそういうものがベースとして残っていると活きてくる部分が大きいと思って、それは絶対にやるようにしています。

他の練習に関しては、毎年同じような内容は多いんですけど、できるだけ毎年質を上げれるようにはしています。基本的にはシーズン中と位置づけは変えないようにしていて。冬だからスピード落とすとか質を落とすとか、量を増やすとかいう考え方はしません。冬でも一日3本とかしか走らないですし、質も落とさないっていうのがベースとしてありますね。

人が8割以下のスピードで走った時のフォームとか身体の使い方って、全力で走った時に全く活きないので。100%で走った時は全く違った運動になってくる、と。絶対にそれ以下には質を落とさないようにというのはベースにしています。必然的にシーズン中とあまり質が変わりません。多少、シーズン中と比べたら積むような練習もありますけども、量は多くないですね。セット数は2,3セットが限度ですし、距離的にも200〜250mで最高距離で、300m以上とか走ることないですし。

ー各セットは何本なんですか

藤光選手

2、3本です。距離は100m以内。200m以上走るときは、そんなにやらないですね。最大で3本とかしか走らないです。

ー鍛錬期というと長い距離の走りこみをするというイメージがあります

藤光選手
ぼくにとってはこれが走りこみです。シーズン中も同じようなことはやっていて、冬季練習も大きくは変わらないですね。多少鍛錬期が長いというだけで。

ー例えばウサイン・ボルト選手でも、鍛錬期は嘔吐するほど追い込むと聞きます。

藤光選手
距離や本数で追い込んで、吐くほどやるっていう方法もあるとは思うんです。ぼくが追い込むとしたら、短い距離で短いレスト時間でやることで、そこまできつい状態にいく可能性はありますが、冬は距離をあまり踏まない代わりにレストを短く本数を走る、っていう練習を結構しています。レストは30秒以内で本数を走る。そうやって距離を重ねる練習で追い込むという考え方ですね。

ー鍛錬期のアプローチとしては、一般的では無いかもしれませんね。

藤光選手
走りこみって、距離とか量を想像される方が多いと思うんですけど、それを求めたところであまり活きてこない部分があって。距離や量をやったから体力ついたかと言ったら、実感する選手はそういないと思います。いくら距離と量をやったからといって、辛さは変わらないというか。400mの選手が距離を踏んだからといって400m走るのが楽になるかと言えば、一本一本の辛さって大きくは変わらないと思うんですよね。練習の内容だと思うんですよ。

同じ内容でもどれだけ質をあげられるかが重要だと思います。短距離選手はスピードあってなんぼなので、体力も必要ですけど、やっぱりスピード。冬でも意識的に作っていかなければいけないと思うので、そういうことをベースに冬は取り組んでいるなと思いますね。

ースパイクも普通に履くんですか

藤光選手
1月2月になったら履きますね。サーキットやる時期だったり身体を作る時期を超えたら、スパイク履きます。
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ーサーキットはどういったメニューなんですか

藤光選手
1つは一般的な周回サーキットで、種目についてもおそらく皆さんが想像できるものだと思います。
もう1つが直線サーキット。周回サーキットよりは少し種目を減らして、補強の間のつなぎ部分をjogではなく流しで行うものです。冬のトレーニングの導入時期には基礎体力作りとしてよく取り入れます。
2つのサーキットに共通して意識するのはjog、流しのフォームです。もちろん補強をしっかり行うことも重要ですが、つなぎの部分はおろそかにされがちです。つらいときにフォームを意識することができれば、試合でもフォームがラストまで崩れにくくなる、というイメージで取り組んでいます。

ー冬季練習は、長い距離を何十本と走るイメージがあります。

藤光選手
高校時代から、練習は腹八分になるようにしているんですよ。絶対にお腹いっぱいになっちゃいけないなって気持ちがあってケガの教訓でもあるんですけど、タイムトライアルで調子いいからもう一本やっちゃおうとか、タイム出そうだからやっちゃおうとか、学生だとよくあると思うんです。冬だからいっぱいやろうとか。自分の気持ちが満たされるまでトレーニングするという考えは違うと思っていて。

一日一日テーマを決めて、今日はそれが達成できたらやめようって決めていますそれが1セットや2セットのメニューでも達成できたら、物足りないと感じてもやめるようにしています。それが競技を長く続ける一つの秘訣と思っています。確実に身体を酷使する競技なので、長くやろうと思ったら、そういうことが競技人生を短くしてしまうかなと。人それぞれだとは思いますが、身体を酷使すると長く競技を続けるのは難しいと思うので、腹八分でトレーニングをやめる、と。ケガのリスクや選手生命を考えて、そういうふうに取組んでますね。

ー「一生で走れる距離は決まっている」というお話を以前されていたと思います。

藤光選手
はい、その距離を早い段階で消化しないようにしている部分があるかもしれないですね。

ー現在の肉体の成熟度は20代前半とくらべて増している、もしくは弱っている、どのように感じられますか。

藤光選手
今が一番いいと思っています。今年は、競技人生でいちばん状態も肉体的にも良かったと思います。取組んできたことが、まだ半分できたかな、くらいなので、まだ競技者としてやり残されているトレーニングが半分近く残っている状態だと思っていますまだ競技力は上がると思っていますし、全く限界を感じていないので。

もうやりきった、やることがないとは一切思わないです。これくらいやってこれだけ結果出るのか、という気持ちが強いです。

ー半分残っていることをやりきった先にある最終到達点は、何でしょうか。

藤光選手
追い求めていったら記録になるんでしょうが、まだ、「やりきった」というところまでいけていないのでいまだかつて完璧な200mのレースっていうのも無いですし。やっぱりまだ不完全なところで終わって、もやもやしている部分が多いと。それを無くせるように。やっていないことがあるので、どこまでいけるか、っていうのは今後取り組みたいことですね。

ーたとえばこんなことやり残しているということを教えてもらえますか

藤光選手
むしろ、いままでそんなに大きくやってきたことがないというか。変わったトレーニングをしているわけではないですし、普通のことを普通にやってきた感じです。海外のトップ選手を見ていても、ぼくらとそんなすごく変わっているトレーニングをしているかといったらそうではない。最終的には、基礎的なことの質を上げていく作業になっていくと思うので、その内容をまだ突き止められていないと思います。

ヘルニアの件もあって、ウェイトに関してもそうですし、制限された中でトレーニングしている部分もあります。やりたいトレーニングはいろいろあるんですけど、そのときになってみないとできるかわからない部分があって、それを見つけるのもテーマなのかなと。今の自分にはどういうものが必要かは、やりながらじゃないと見つからない部分があります。ここ最近不具合が出やすい股関節周りはトレーニングができていないので、今後やっていかなきゃいけない部分かなと思いますね。

ー休養は長くとられる方なんですか

藤光選手
どれくらいがスタンダードかはわからない部分がありますけども、日本人の中では長い方だと思いますね。海外の選手って一ヶ月とか休む選手がほとんどだと思うんです。日本に比べてシーズン終了が早いこともありますけど。日本の選手は1,2週間程度休んだら冬季を始める選手が多いのかなと。僕の場合は1月半〜2ヶ月位休みます。「それくらい休まなきゃ疲れ取れないでしょ」と。それも長く続ける一つの要因だと思っていて、ひとつひとつリセットしていかないと、細かい疲労が蓄積されて言っちゃうのかなと思うんです。

1月半〜2ヶ月とは言ってますが、自分の感覚的なところなので、疲れがとれたと思ったらもう少し早くやると思います。今年はだいぶ疲れた年で、いろいろ経験して身体も酷使した年なので、長めに取りたいなと思っています。タイミング見て始めていきたいですね。

ーあ、今が始め時だな、と感じられる瞬間ってあるんですか

藤光選手
筋肉の張りが無くなったら、ですね。運動していたらどこかしら張っていると思うんですけど、その張りがどこかしら動かした時に感じなくなったら、「リセットされたな」と思うので、それがサインかなと思います。脚を伸ばした時や曲げた時に、張りがなかったらリセットされたと。

今は身体的にはリセットされたと思いますが、本当は疲れが抜けきっていないという部分もあると思っています。今年は例年に比べるとそういう疲れが残っていると思うので、通常の休養期間プラス、見えない疲労を抜く期間をとっているという形です


距離や本数を追い求めず、身体と対話しながらじっくりと疲れを抜き去るー。藤光選手のシーズンオフの過ごし方には、長くトップでいつづけるヒントがあるように感じました。

インタビューPart3.「on the track-フォームの変遷-」では、藤光選手ご自身に、ランニングフォームの変遷について語っていただきます。




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