【桐生祥秀選手インタビュー】Part.1-求める荒々しさ、求めない綺麗さ-

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100mで10.01の日本歴代2位の記録を持つ、”ジェット桐生”こと桐生祥秀選手が登場。2015年シーズン、3月に追い風参考ながら9.87(+3.3)をマークすると、5月の世界リレー選手権では3走として38.20をマークして銅メダル獲得に貢献しました。シーズン前半に大きな期待を集める走りを見せるも、日本選手権前に右太もも裏を肉離れ。北京世界選手権への出場はなりませんでした。しかし、シーズン終盤に復帰すると、10月の布勢スプリントで10.09(+0.3)をマーク。リオオリンピックの参加標準記録を突破する記録で、復活を果たしました。

桐生選手にこれまでのキャリアを振り返り、速さの秘密に迫るインタビュー第一弾。復活レースとなった布勢スプリントのレースを振り返りながら、桐生選手が求める速さの理想像に迫ります。

(2016年1月26日東洋大学川越キャンパスにて)


 

高校進学時の劇的な環境変化 (2011年)

ー今日はよろしくお願いします。

桐生選手
はい、よろしくお願いします。

ーまず、これまでのキャリアを振り返ってお話を伺います。特に、劇的な進化をされた高校一年から二年の間に、なにがあって、あれだけのブレイクにつながっていったんでしょうか。

桐生選手
正直に言うと、中学の時はそんなに陸上に対して本気ではありませんでした。チームメイトとワイワイやりながら走ってたら、全国の二番にいけたって感じでした。高校に入って、滋賀から京都(洛南高校へ入学)に行くことになったので、「本気で陸上やってみようかな」って思ったのが、きっかけといえばきっかけですね。ところが高校へ最初の練習行った時に、全身をつったんですよ。めちゃくちゃしんどくて、きつすぎて。「これはしっかりやらないといけない」と思って、本格的にやりはじめましたね。

ー中学時代は、200mで全国中学選手権2位で、21.61というタイムは歴代でも6位。それだけの結果を残した桐生選手が、ついていけない洛南高校のトレーニングとは…。

桐生選手
中3の冬に高校が決まって、「どんな感じかな」って一緒に入学するメンバーと観に行ったんです。そしたら、それがめちゃくちゃきつくて。「あ、これが高校のトレーニングなんだな」って思いましたね笑。

ー中学時代は、短距離専門の指導者の方ではいらっしゃらなかったんですよね?

桐生選手
元長距離の先生に、僕ら短距離も教えてもらっていました。専門的にというよりかは、みんなで楽しくやる雰囲気でした。

ー高校一年時、国体少年B100mに10.58で優勝されています。そこから高校2年までの期間がものすごく大きかったかと思うのですが、どういったトレーニングが有効だったんでしょうか。

桐生選手
トレーニングをしっかりやったのが、中3と高1の間でした。高1から高2の冬に初めてまともに冬季練習をやりました。本当に「うわ〜」っていうほどきつい毎日が続いて。朝練でも、それまで取り組んでいなかった補強に取り組みました。そうしたトレーニングを乗り越えていくことで、身体ができていきましたね。
ー洛南高校のトレーニングといえば、あまり長い距離を走らない、というイメージが有ります。
桐生選手
ミニハードルとかジャンプ系とか。グラウンドが小さくて、直線で100mとれないんですよ。その中でどうやっていくのか、自分で考える時間がたくさんありました。シーズン中には、「ここから一時間は各自練習」っていうのがけっこうありました。跳躍の人は跳躍いったり、100mの人はミニハードルやバウンディングやったり。自分で考えないと練習できない環境でもあったので、自分でメニューを考えて、今日は何するかをみんなで話し合ったりしていました。
ー洛南高校には専門の指導者の方がもちろんいらっしゃいますが、選手が自主的にトレーニング計画は組まれているんですか。
桐生選手
時期によって違います。例えば夏場だと、ちゃんとアップがあって、準備をしっかりしてから、この1時間は自分たちで動いて良い時間がありました。そこで「今日は何する?」っていうのをみんな考えてやっていましたね。
ー当時からトレーニング組まれたり、ご自身でコンディションを把握されることに、意識的だったんですね。
桐生選手
やはり先輩がいたので、一年生の時は先輩がどんなことをしているか、ついていくのが必死でした。
ー一年生当時でインターハイの4×100mリレーで決勝に残って一走を務めました。その当時の先輩から受けていた刺激は非常に大きかったと?
桐生選手
そうですね。2つ上の先輩が400mで全国3位、8種競技では当時の日本高校記録を出したのを間近で見ていたので、自分は全然まだまだだな、と思って練習に取り組んでいました。

 

高校記録を連発し、大学一年で学生記録に並ぶ (2012~2014年)

ー中学の時の意識が大きく変わっていった時期だったと。高校二年で10.19(+0.5)をマークされますが、高校二年から三年というのは、大きな変化というのはあったのでしょうか。

桐生選手
そうですね、高二の秋くらいから、徐々にタイムが伸びていきました。その時にも風が良ければ10.0台が出ていたかもしれないですけど、そのタイミングじゃなかったのかもしれないですね。
ー高校二年の当時で、高校記録は2度更新されています。特に良かったレースを振り返られると、どちらになるのでしょうか。
桐生選手
走りとは別ですが、高二の時に国体で初めて、先輩たちに勝って日本一になったということが大きかったですね。前年に国体少年Bで優勝していますけど、結局それは高一・中三の中だけなので。少年Aで高二・高三って部類になって、負けていた人に初めて勝てた、それが一番嬉しかったですね。

ーそして、高三で10.01(+0.9)をマークします。さらに現在は、アベレージのレベルが格段にアップしていますよね。高校から大学に入って、トレーニングはどのように変わられたんでしょうか。
桐生選手
自主的に大学ではいろいろ取り組むことができます。ただ、急にタータンで走り出すと疲れがたまるというか。今は、大学二年になって自分の主張も出せるようになってきましたが、一年のころは片付けとか寮の生活とかいろいろあったので、適応しきれていなかったですね。
ーただ、一年時の関東インカレでは、10.05(+1.6)までいかれてらっしゃいますよね。その時のレースというのはいかがだったんでしょうか。
桐生選手
あの時、準決勝まで思いっきり走っても10.3くらいでした。「ちょっとこれはやばいな」と思って、負けず嫌いなので、本当にあの時は気合が入りました。集中していたって感じでしたね。

 


 

そして、現在。ケガからの復活 (2015年)

ーここ最近、桐生選手のランニングフォームが変わってきているなと思うんですが、10.09をマークした布勢スプリントのレースを見ると、腰の位置が高くなって、膝から下の振り出しも高校時代より前に出ているのかな、という印象を持っているんですけど、技術面ではどういった点を意識されているか、教えてもらえますか。
桐生選手
そうですね、高校の先生にも言われたんですが、「うまいこと走りすぎている」って。0〜100mをきっちり走りすぎているように見えないですか?速い部分が無いというのもおかしいんですけど、ガツガツ感が無いというか。さらーっと行ってゴールして10.09。あまり好きじゃないレースですね。僕としては前半からもっと攻めて行きたいんです。あの時はケガしていたので、ウェイトや補強も全然やっていなかったので、身体もけっこう細くて、それしかできなかったっていうレースです。
ー一方で100mを綺麗にまとめきる能力がついている、ということも言えるかとは思ったのですが。その点についてはあまり求めてらっしゃらないですか?
桐生選手
100mを綺麗に走りたくないんですよ、逆に。どんだけブサイクな走りでもどんだけダサかろうとも、僕は100mを一番でゴールしたいので、綺麗さはいらないんですよね。やっぱり外国人の選手って観ていておもしろいな、と思うのは、前半からガツガツいって、あとのことは考えないで行くじゃないですか。日本人は最初からすーっといってまとめる感じ。僕はその走りができないのもありますし、得意でもないんです。
ースタートから前に出てまとまった良いレースだと感じたんですが、ご自身としては全然違った印象なんですね。
桐生選手
もうちょっと速いタイムを出したかったです。オリンピックの標準記録を切れたことは良かったですが。
ー綺麗にまとめるレースになったのは、怪我からの復帰間もないレースで、セーブしたようなところがあったんでしょうか。
桐生選手
復帰初戦の全カレではタイムを気にせず、勝つレースに徹して、徐々に調子を上げていきました。9月の関東新人100mでタイムが上がっていったので(-0.5で10.19をマーク)、仕上がりはよかったのかなと思います。
ー体調はけっこう合わせることができていた状態、ただし理想とされているレースとは…
桐生選手
ちょっと違う、と。
ー理想とされる走りが、できているレースというのはこれまでにもあったんでしょうか。
桐生選手
ところどころ、ですね。前半良かったけど後半悪かったり。ただ、僕の理想の走りというのもそんなにまとまっていないのが正直なところです。一番にゴールしたいって気持ちだけでやっているので、どれが正解の走りかもわからないです。僕のフォームは、スタートダッシュの出方も試合によって全然違うので、どれが正しいかっていうのもわからないですね。
ーでは、理想とするレースパターンがあるわけではなく、常に模索して、もしかしたら結果として…、
桐生選手
結果として、あ、でもレースパターンとしては最初の30mを目安にしています。そこでどれだけ良い加速ができるか。そこからはもう行くしかないので、最初の30mがダメだとけっこう後半にもつれて、スピードに乗らずに終わっていくんです。
ーやはり10.01も10.09のレースも、前半ですごい前にでています。30mで一気に前に出て、後ろを引き離すという走りですよね。
桐生選手
現時点での理想に近いレースですね、どっちも。
ーガツガツした走り、ということで、参考にしている選手はいるんでしょうか。
桐生選手
目標としている選手はあまりいないです。走り方を真似するっていうのは難しいので、自分の走りを極めることしかできないですね。
ー綺麗な走りよりも自分の走りを追求していきたい、という意識を持たれたのはいつからなんでしょうか。
桐生選手
高校までの練習は、決められたメニューをこなす練習が多いですが、大学では自分の中で足りない部分やレベルアップのメニューを考えないと速くなれません。自己の考えがない人はあまり成長できないと思うんです。出されたメニューばかりをやっていくというのは高校で終わりにして、自分で考えて練習に取り組まないとダメだと思います。
ートレーニングの中にご自身の考えを反映していくというのは、メニューを追加するのでしょうか、それとも一つ一つの動きにより意識的に取り組んでいく、どちらがよりイメージに近いでしょうか。
桐生選手
意識、のほうがどちらかといったら近いでしょうか。どの練習を最初にしたら良いかなど、コーチといろいろ話し合っていて、良い関係が築けています。
ー会話しながら、調子を見ながら、チューンナップしていくんですね。

桐生選手が求めるレースは、荒々しい力強い走り。決して綺麗にまとめきることを求めてはいないことが見えてきました。高校時代から思考しながら走りを追求する中で、桐生選手らしい走りの形は型にはまらないものになっていったのだと感じました。
Part.2では、より技術的な部分まで、ご自身に解説いただきます。




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