【高平慎士選手】引退直前インタビューpart.2:速さの秘密、「センス」と「スキル」

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高平選手へのインタビューpart.2では、その速さの秘密に迫ります。ご自身に備わる特別な能力。不動の3走として見せたコーナリング。様々な角度から、スプリンターとしての高平選手を分解・解説いただきます。


-続いては、高平選手の「センスとスキル」、というテーマでお伺いしたいと思います。非常にスレンダーで長い脚、高平選手以前も以降もあまりいないタイプのスプリンターじゃないかと思います。速さを生み出す秘訣を可能な限り言語化して解説いただきたいと思っています。

高平選手
はい(笑)。
-まずはセンスという点からうかがいます。率直に、高平選手はこれだけ細身の身体でなぜ速いんでしょうか。
高平選手
見た目にわかることで説明できることがほとんどないと思っています。メトロノームが自由自在にいくらでも動かせてしまう、ということがぼくの一番のストロングポイントです。リズムを変えられる。走りのリズムがいいポジションに持ってこられる。狂わないというよりは常にいいリズムを刻める、自分の思い描いた形を作れる、ということが一番の強いポイントかな、と思っています。前半から行くことも行かないこともできるし、自分で操れる。
-それは鍛え上げてきたことなのか、初めからできたことなんでしょうか。
高平選手
先天的なものだと。そういう意味でセンスですね
-リズムを変えられる、というのは多くのスプリンターにとっては難しいことだろうと思います。
高平選手
そういう感覚が無いと思います。リズムを変えるということは、身体の動きでどうにかする、というイメージが強いと思います。絶対音感じゃないですが、「こういうタイプだな。こういう感じだな」ってぼくは他の選手に対して思うのですが、同じように自身で思い描けている選手にほとんど出会ったことがないです。
説明してもあまり納得してもらえない点で、やっぱりほとんどの方が(ウサイン・)ボルトが走れていないということがわからない、「いつも速いんでしょ」と思う理由はそこにあるのかと。速いときもあれば遅いときもあるし、100mも200mも違うんですよ、っていうことは、ぼくの中ではすごく鮮明に感じることができるんです。それを自分自身だけじゃなくて、他の人にもあてはめて見ることができる、そういうリズム感みたいのが持てているというのが、一番の強みです。
-わかりやすく捉えてしまうと、レースパターンが多様だなと思います。2002年のIHでは前半からリードを奪っていますし、2011年の日本選手権では後半で高瀬慧選手を逆転しています。ご自身の走りを崩さずに、いろんなレースパターンを表現できる、体調や天候に対応したパフォーマンスを発揮できる、ということが言えるのでしょうか。
高平選手
(少し考えながら)そうですね、まあそうなんですね。
-単純化しすぎた捉え方でしょうか。
高平選手
いえ、見た目はそう捉えるしか無いです。
-外から高平選手の感覚を捉えるのは難しい、ということなんでしょうか。
高平選手
変なことを言うと思われるかもしれないですけど、正直なことを言うと、2005年から2012年ころまでは、走る前からほとんどのレースが終わっていました。何を言っているかと言うと、ぼく以外の選手のレースパターンが全て読めた上で、誰が勝つか、どれくらいのタイムか、日本選手権の決勝くらいならだいたいわかっていました。なので、この試合はぼく以外が1位になることはない、とわかるくらいでした。そういうイメージが思い描けるレースしか無いので、レースパターンを変えている変えていないは関係なくて、勝つのはぼくなので周りにどう走られても関係ないんですね。それだけの自信があったということでもあるんですけど、ほとんどのことが予想通りの展開になる。
陸上競技では自分の走りに撤しなければならない、と考える選手が多いと思います。でも、他の7人と勝負をしなければいけないわけですよね。その時に、相手のことを何も知らないようじゃ、勝負にならない。予期せぬ事が起きた時に何も対応できない、という選手にぼくはなりたくなかった。それはリレーの3走でどれだけ冷静でいられるかという能力として身につけようとしたことでもありました。「こういうふうになるだろうな」「こういうふうにやってくるだろうな」って分かる相手と勝負したって面白くはないんですが、勝つだけのためにやっているので。「表彰台3人はこれくらいのタイム」というのは、研ぎ澄まされていた時は把握できていたので、あまりレースが面白いことはなかったですね。
-スタート地点に立つ前にすら勝負は決まっている、というか。
高平選手
はい、わからないときでも10パターンくらいのうちのどれかにはなるので。一喜一憂するということがあまりなかったですね。もちろん、日本選手権を取ることが嬉しい、という想いはありましたけれども、まあそういう結果になるよね、という想いになるレースしかなかったのは事実です。
-ご自身のタイムが予想がつくという選手はいると思いますが、周りのタイムまで見えてしまうというのは、周りの選手のリズムが見える観察眼や洞察力があってこそでしょうか。
高平選手
2012年なんかは、ちょっと高瀬選手と飯塚(翔太)選手(に勝つこと)は厳しいなと思ったんで、逆に考えて、他の5人に勝てばいいレースにする、というプランに変えたりとか。そうした戦略・戦術っていうのは、恩師である順大の澤木啓祐先生の存在が、大きいです。「戦略・戦術が立てられない選手にはなるな」ということは、口酸っぱく言われていました。そこに、自分のいいところ悪いところもスパイスしていった結果、そういった能力を作り上げることができましたね。
-センスではあるものの、ご自身の蓄積や澤木先生の薫陶を受けて、作り上げられてきたんですね。「◯◯力」と表現するのが難しい力ですね。
高平選手
人間観察するということが好きなので、為末(大)さんの言葉を借りるなら「揺れている選手を見つける」。今年サニブラウン(・アブデル・ハキーム)選手も言っていましたけど、タイムとか関係なくて、結局あの場にいたら勝負なんですよと。相手があることは変わらないんですよね。コンタクトスポーツではないにしろ、相手がどうやってくるかによるスポーツではあるので。それが見えないようじゃ厳しいな、っていうことを最初の方の世界大会での負けで経験させてもらえたのは大きかったです。
-初めての世界大会から気後れせず結果を出す選手もいます。そうした選手は早い段階である程度のパフォーマンスは残せても、最終的には高平選手が見たような領域までは到達しないかもしれないですね。
高平選手
それがぼくはすごく羨ましい部分ではありますね。
-決してマイナスではないと。
高平選手
マイナスではないと思います。何度も経験しないでも、成功するパターンってもちろんあるんです。ただ、継続性があるかどうかで考えたときには、戦略がないと絶対に厳しいとぼくは考えています。
面白いなと思うのは、朝原(宣治)さん、為末さん、室伏(広治)さんという方々って、ゾーンに入る率は低いんじゃないかということです。為末さんを2005年のヘルシンキで見ているんで、あそこで(3位に)入ったっていうのはすごいなと思います。ただ、基本的にやはり考えて競技をやっている人なんです。もちろん、いきなりパフォーマンスを発揮できる人たちが考えていないというわけではないです。たとえば、0から100までパフォーマンスがあるとして、そうした選手はダメな時はダメなことが多い。ぼくは基本的に90のパフォーマンスをする競技者だと思っています。ダメでもなんとかする。
-ただし、前者のひとたちが爆発すると…。
高平選手
爆発すると120の力が出る。その120っていう部分は、先ほどの3人は羨ましく思う部分だったんじゃないかと思います。特に朝原さんは、為末さんがヘルシンキのようなパフォーマンスを発揮できたことが羨ましいとずっと言っていました。自分は考えてしまう部分があるからと。北京2008オリンピックのリレーの決勝くらいなんじゃないでしょうか、パーンと爆発しているのは。ゾーンに入ることが、考えすぎることによってできなくなる。性格もあるし競技への取り組み方もある。ぼくも爆発するタイプがすごく羨ましいなって思います。ただ、ブレやすい選手になってしまうので、どちらでいくかというのは選手それぞれだし、そこを感じないままで終わっていくこともある。大学生くらいまではそうしたことはわからないですから。そうして終わってしまう選手もいる中で、どうやってアドバイスをもらっていったらいいかというのは、ぼくは朝原さんとか為末さんを近くで見ることができてすごく幸せだったと思っています。
-高平選手の息の長さの秘訣を見た想いです。戦略というお話がたびたび出てきました。再現性や立て直しを図る際の原動力になるわけですね。
高平選手
藤光(謙司)選手は似たような感じかもしれません。
-藤光選手には、「学生当時のご自身に話されたら、理解されるでしょうか」とうかがったところ、わからないだろう、とおっしゃっていました。学生当時の高平選手はいかがでしょうか。
高平選手
7割くらいするでしょうね。そういう意味では冷めた人間でした。
-パーンと燃え上がるよりは、できることをやりきる、と。
高平選手
いまが良ければいい、ということを全く思っていなかったということですかね。2009年が唯一、今が良ければ、とやったシーズンでしたが(笑)。
オリンピックで、次につなげたいと思います、というインタビューの場面がありますが、次は無いんだとぼくは思っています。ぼくは幸せなことに3回オリンピックに出させてもらいましたけれども、一生に一回行けるかどうかの大会で、次につなげることってほぼ無いんですよね。そこは必ず、自分の最大パフォーマンスをしなきゃいけない場だと思います。ただ、自分を高めるためのツールとして活用していかなければいけない。セカンドキャリアでもそうだし、80歳のおじいちゃんになったときもそうだと思うし。そういったことを常に考えていたというのは、小学校中学校くらいから、そういう想いでやっていた。そういうマインドはセットされていたなという気がしています。
-当時からご自身の性格というのは大きくは変わってらっしゃらないでしょうか。
高平選手
変わってないですね。すごいイヤな生徒だったと思います(笑)。占い師じゃないですけど、それを知っていたらわかるよね、っていうことがすごくぼくの中ではありました。なんで他の人は自分でわかっていてもやらないのかな、って。それは先生たちにも思っていたことなんで。こう言っちゃなんですけど、自分がどういった状況にあるかわかっていて、励ましの言葉をかけてくる先生は、ぼくは信用ならないと思っていたので。人間の底を常に見ながらというか、どこに本心があるのかとか。こういう立場になっていろんな方とお会いする中で、それがわからない人と接することはすごく楽しいですね(笑)。

-スキル、という部分でもお話を聞きたいと思います。高平選手はご自身のスタートダッシュについてはどう捉えてらっしゃいますか。
 
高平選手
苦手な分野には入ると思います。18歳の時に師事したトム・テレツコーチに出会ったことによって、考え方がすごくおおらかになったというか、スタートが速いことが常に速いことにつながるわけではないんだというのをちゃんと理解できた。コーチに出会ってすごく良かった部分だと思います。
陸上教室をやらせてもらうようになって、子どもたちの悩みのタネは、だいたいスタートなんですよ。小中高、ヘタしたら大学生も言うくらいです。そこになんの悩みがあるかよくわからなくて、100m先200m先で勝たなきゃいけないのに、なんでわざわざ10m20mを速くしたいのか、と。ぼくの性格上でもあるんですけど、あまり考えていなかったのは事実です。
 
-分類としては後半型ですよね。スタートというのは、ギアの1段目2段めのような感覚なのでしょうか。
 
高平選手
ロケットの発射台だと思っています。ギアというよりかは、出るための道具ということで、そこで1歩目2歩目がどういうふうに作りあげられるか、身体がどういうふうにブロックと接しているか、というのを考えるくらいです。
 
-それでは他の人にアドバイスをされるときは、技術面よりレースをトータルでどう考えるか、ということが中心になっていくでしょうか。
 
高平選手
そうですね。ぼくは基本的に考えてやってほしいと思いますし、人生設計まではいかなくとも、100mのプランくらいは考えられる選手じゃないと、速くならないですよね。じゃあその時に何を考えるかって、95m分速く走ることを考えたほうが絶対に速くなる確率が高いんですよ。でもなんでそこに目を向けられないのかということ自体を考えたことがないんだと思います。
もっと言えば、自分の身体がどう動いているかもわからないのに、人よりスタートが遅いから苦手なんです、っていうのはちょっとおかしいということをまず教えます。技術よりも、まず考え方が変わらないとなにも変わらないので。そこが変わらなかったら、ぼくのクリニックに参加してくれた時はやるかもしれないけど、終わったらまたスタートが苦手だからスタートばかりやる、ということになってしまうんですよね。ぼくはそこは避けてほしいし、ぼくらが教えれば多少なりとも速くなるのは当たり前。そこを求めてきてもらっているとは思うんですけど、ただそこよりも、もっとやることがいっぱいあって、きみたちの成長度合いに合わせて必要なものが絶対あるはずだ、と。
いきなり多田(修平)選手みたいに、スタートが速くなる子はいないんですよね。スタート教えたからっていきなり速くなることはないのに、そこばかり教えたってしょうがなくて、100m先のゴールに向かってどういうレースプランで君は展開していきますか、と。ほとんど答えられる子はいないです。日本の教育特性なんでしょうかね。「自分の得意なところは?」って聞いても答えられる子はほとんどいないんです。でも、苦手なポイントを挙げられる子どもっていっぱいいます。自分のことで良いことがわかっていない子が、ここが苦手です、っていう話をしている時点で、本人の理解度が足りないんじゃないか?と思っていて。もっといいところを伸ばしてあげるということ。最後に助けてくれるのは、自分がいちばん信頼できる武器だと思っているので。
 
-目先のスキルを教えるのは簡単だけど、高平選手が伝えたいのはマインドセットの部分。考えることをしていないことに、まず気づいてもらうことだと。
 
高平選手
それしかしていないです。
 
-考えていないんだ、ってことにすら多くの人は気づいていないということなんですね。
 
高平選手
気づいていないんです。
 
-スタートの話から、大きくお話が広がってきました。
 
高平選手
すみません(笑)。スタートに関してのスキルで言うと、コーチが力学専攻なので、どういう角度で出れば一番力が発揮できるかというのを、藤光選手もほとんど同じことをやっていますけど、すごく重要なポイントなので崩さないように。スタート練習自体はやりますけども、スタートからどういう風に出ているか、っていう練習のほうが多いです。
-最近、テレビでも山縣亮太選手のスタートが取り上げられることがあります。あれも、山縣選手にはまずプランがあってその上であのスタートになっているという順番なんでしょうね。スタートダッシュだけを取り出すと、本質を見誤るというか。
高平選手
そうです。極端に言えば、(後半型の)飯塚選手がテレビを観て山縣選手になろう、ということと同じになっちゃってる人も中にはいるんですよね。それはちょっと違うよね、ということに気づくかどうか。
-代表リレーチームでは常に3走を任されてらっしゃいましたが、コーナリング技術についてはどう捉えてらっしゃいますか。
高平選手
基本的な考えとしては、二軸で考えていて。左の肩と骨盤が必ず先行するように走る、というところはスキルの一つではありますね。どうしてもコーナーを走る時に、上体を被せて走ろうとする人は多いですが、ずっと二つの軸で走っていくのが基本的な考えです。
-どうしても、上体を傾けて被せる発想になりがちだと思います。そうでなければ曲がれないのでは?と。
高平選手
そこはスキルですね。考えてやってきた部分ではあります。海外の選手がよく肉離れする局面って、コーナーを抜けてからなんです。なんでそうなるかというと、リズムが変わるからだと思うんですね。
考え方を変えてみて、全部5mずつの直線だったらどう走るかなと。やっぱり直線に近いほうが速いに決まっているんですよ。なのに、わざわざ直線で上体を被せて走る選手はいないわけじゃないですか。てことは、逆だよね、と考えたのが初めてのきっかけです。
あとは末續さんの走りだったり、世界の選手がどう走っているかで言うと、やっぱり左側が先行している人が多い。ということは根本的に考え方が違うんだろうなと。左肩はずっとコーナーで引っ張られているじゃないですか。引っ張られたままの感じで出ていく、っていうイメージではいますね。
-インレーンでもその走りで曲がりきれる、ということですね。
高平選手
サードベストは2レーンです。そんなに苦にはしないですかね。インレーンなら遠心力使えて速そうだなとか思ったりするので。
-遠心力、コーナリングで外に押し出されてしまう感覚かと思います。
高平選手
遠心力で振られることを前提に走るので、コーナーを抜けてくると、外側を走るんですよ。そこを無理やりインを走ろうとするから遠心力がかからなくて、自分の力だけで走るしかなくなります。振られるのを、手と足で方向性だけ位置づけちゃえばプラスなんじゃないか、というのがぼくのプランにはあって。そうなると、遠心力をもらえればもらえるだけ速いんですよね。うまく使えれば、内側のレーンだろうと関係ないと思います。
-これは高校時代から意識されていたんでしょうか。
高平選手
感覚はつかんでいました。大事なところはここだというのは、わかっていました。コーナーを出ていつの間にか前に出ていることが多い。「あれ、そこまで行ったつもりはないのに」、という感覚なのに。その局面が大事なんだな、と気づいたわけです。200mの選手は考えている人が多いと思うんですけど、あそこの局面ってリハーサルができないんですね。全力の中で生まれる遠心力なので、試合以外で体験できないんです。イメージするしか無い世界なので、それだけの遠心力が作れる練習ってほぼできない。そこがすごく難しいので、センスがすごく問われると思います。そこに対してどういうスキルでいけば対応できるか、というのが勝負だと思います。
イメージなんですけど、「マリオカート」のミニターボだと思っているので。遠心力で振られるのを、ミニターボを使えるか使えないか、というイメージなんですよね。
-ミニターボはちょうどコーナーを抜けた外側で発動するイメージがあります。
高平選手
そうなんです。やっぱりあれって振られることが前提じゃないですか。そこをキュッと小さく曲がるのなら使えないですし、使わなくていいんです。ただ、どっちが速いかというのはゲームの世界では実証されてるわけです。それっておそらく、ゲームの世界で実証されているなら、F1の世界でも同じことになるんじゃないかと思っていて。機械は形が変わらないですけど、ぼくらの肉体は流動的に使うことができる。
ぼくは男子選手にはマリオカートで説明することが多いです。それをちゃんと考えているか、ということを説明する時に、任天堂さんにお世話になっているんですね(笑)。ゲームをやっていれば共通認識としてわかることなので使わせてもらってます(笑)。
-今の説明なら、小学生でもわかりそうですね。

-最後に、高平選手は何度も400mや400mHをやらないのかと、言われ続けてきたと思います。それでも200mを続けられてきた想いについて、教えていただけますか。
高平選手
はい(笑)、400mHの方が多かったですね。ハードルをやっていましたし、器用でストライドもあるということで、為末さんにもよく「おれがお前だったらヨンパーやっている」と言われていました(笑)。200mをやり続けたのは、ざっくりした話で申し訳ないですけど、ボルトがいるから。なんでそこから、わざわざメダルを取れるということのためだけに、種目を変えるのかということが、僕には魅力的な選択ではなかったんです。
-為末さんとは真逆の考え方ですね。
高平選手
そうですね。勝負できる場所を選んだ人と、真逆の選び方をしましたね。「なんで人類でいちばん速い人と戦うチャンスがあるのに、それを避けて通ってまでメダルを狙うのか」と。もちろん価値があるのはメダルかもしれないですけど、自分の価値を選んだっていうところですかね。他人から見た価値ではなく、自分の中での価値。
-高平選手を見ていると、種目選択って自由でいいんだ、と実感します。周りに言われたからではなく、自分がそこで闘いたいかどうか。
高平選手
それが一番の理由だと思います。じゃあ誘ってくれた人が責任持って教えてくれるのか、ということだったりとか(笑)。転向すればいいって勧めてくるけどそこまでの想いじゃないんだろう、って気持ちもありました。
-200mで戦っていく、ということに対する決断のタイミングはあったんでしょうか。
高平選手
選択肢としてほとんどなかったので。ただ、揺れた時期がゼロだったとは思ってないです。何度か、やったほうがいいのかなと思ったことはありました。
初代山の神・今井正人選手と(順天堂大学の)同級生なんですけど、いろんな競技の話をしていた時に、「100mできるんだったらやる?」と聞いたら、「そりゃやるよ」と答えが返ってきて。あれだけのマラソン選手でさえ、100mをやれるんだったらやりたいという想いがある。為末さんもたぶん言われると思うんですけど、なんで400mHやっているんですかと言ったら、結局淘汰されてそこにたどり着いた、っていうふうにおっしゃると思うんです。今井選手でさえ、あんなに輝きを経験していても、100mをやれるならやりたいって想いがあるんだなっていう話を聴いた時に、自分が思い描いて勝負できる場所があるのであれば、やり続けたほうがいいんだな、やり続けたほうが自分にとっていいことが多いんじゃないかな、っていう風にその会話の時に思ったことはありましたね。
-仮に、高平選手が400mHをやられていたら、ここまでタイムが出たんじゃないか、と想像されることはありますか。
高平選手
無いです。想像したことが無い。もちろん自分の競技に繋がるのであれば考えたかもしれないですけど、マイルも走りたくないと思っているので(笑)、必要性がないということでしょうかね。

生まれ持ったセンスと、突き詰め続けたスキルとの融合。高平選手の速さの秘密を語っていただきました。驚かされたのは、その言語化能力です。他人が共感するには難しいイメージを、多くの人が知っている比喩で伝えることができる力。高平選手の積み重ねたものが、こうして受け継がれていくのだと感じました。
part.3では、高平選手の私生活についてお話いただきます。しかし、話は更に広がり、今度は2代目山の神・柏原選手の話にも展開します。




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