【高平慎士選手】引退直前インタビューpart.4:セカンドキャリアの道筋

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高平選手へのインタビュー最終回。飛躍を続ける日本短距離界を高平選手がどう捉えてらっしゃるかをお聞きします。これまで積み重ねてきたものが、次の世代にどう受け継がれているか、さらなる高みを目指す短距離界に足りないものは何か。世界で戦い続けてきた高平選手ならではの提言をお話しいただきます。そして最後には、スプリンター・高平慎士の最後のレースの展望にも迫りました。


-最後のテーマということで、高平選手には現在の短距離界がどう映っているかをうかがいます。昨年のリオデジャネイロ2016オリンピックから今年のロンドン世界陸上。リレーでのメダル獲得という活躍に対して、高平選手がどう感じてらっしゃるか、率直な気持ちを教えていただけますか。

高平選手
リオデジャネイロ2016オリンピックに関しては、本当に単純にすごいなと。順番的にはぼくの想定内でしたが、タイム的には想像以上でした。あそこまで簡単にいくものなのかなって思わされるくらい、素晴らしいタイムだったなと思います。それに値する色のメダルで、すごく羨ましいとも思いました。彼らならやってもおかしくないなというメンバーが揃った中で、現状の最高値だったと思います。
-予選から、バトンがつまりながらも37.68の日本新記録。このレースをご覧になった時はいかがでしょう。
高平選手
レースの結果に対してどうこう思うよりは、これは銀メダルくらいまであるなと感じていました。ただ、冷静に考えると速いなというのはありましたけども(笑)。どこをターゲットにしていくかというのは、予選によってある程度見えてくるかなと思っていたので、その上で銀まであるなというレースをして、彼らはぼくらが取ったときと一緒で、普通にやればメダルが取れるという位置で、どういうレースをしてくれるかな、というのはすごく楽しみではありました。
-結果、銀メダルを獲得。その瞬間と、その先とを高平選手はどういった気持ちでご覧になっていたのでしょうか。
高平選手
その瞬間は、「本当に銀メダル獲ったよ」と思いましたけど、こっから先ジャマイカに勝つにはどうしたら良いのかな、っていうのを考えました。結果として逃げ切りましたけども、アンカーのケンブリッジ(飛鳥)選手は相当追い込まれていたので、そこまでにどれだけのアドバンテージを3人で作りあげるかというレースパターンを、やはり崩すわけにはいかないんだな、と。メダルを獲った三大会を見ると、やっぱり1走でどれだけ出られるかという勝負になっています。逃げ切り勝負がどこまで通用するのか、どういうふうにプランを持っていくかを考えなきゃいけない。
今回サニブラウン(・アブデル・ハキーム)選手が決勝に残ったことで、個人のレースで通用したからと言って、リレーの区間でどう活用していくかというのはなかなか難しいところがあるので。バトンの得意不得意によって、日本の良いところを活かせるプランも、ゆくゆくは壊さないといけないかもしれない。世界大会にその場で集まったら、軽くバトンをやって終わり、というパターンも考えていかなきゃいけないと思います。
このまま伝統的にアンダーハンドパスをやることを前提に考えている方が多い中で、日本のプランはどうしていくのかという岐路に立たされる時期が、けっこう早くにやってくると思っています。そもそも個人種目すべてを走り、リレーもすべて走りきれる選手は少ないんですよ。そうなったときに、前提として決勝に行った場合のメンバーは温存する、とか、ちゃんとプランニングをしないと、その場その場の臨機応変でなんとかしていくのは厳しい時期になっているというのが正直なところあります。
-今年のロンドン世界陸上でのリレーのメダル獲得は、快挙でありつつ、新たな課題を表面化させたわけですね。
高平選手
そうですね。(リレーメンバーに)入ればメダルを獲れるようになってきたわけですからね。そこをどういう風に捉えていくかが大きいかなと。
-日本のレベルアップがより求められているのは、組織なのか個人なのか。
高平選手
二本柱だと思いますよ。どちらも大事です。個人に関してサニブラウン選手だけで終わるのかと言ったら、みんなが海外の大学に行ったらどうするか、メンバー4人とも海外にいて集まれません、となった時にどうするかということを、本気で考えておかないと。
-海外を拠点に置く選手が増えていった時に、異なる考えを持った選手たちをどうマネジメントしていくのか、組織の課題として解決しなければならないと。
高平選手
そうですね。向こう側のコーチの考え方にも関わってくることなので、「うちのチームの選手は個人種目だけでお願いしますよ」と言われる可能性もゼロではないと思うんですよ。その時にどう受け入れていくのか。マネジメントに関しては組織がやることだと思うのでそこは大事だと想いますが、選手のキャリアを考えることは選手自身が考えることなので、その中で自分が本当にこの局面で必要かというのは選手個人が考えなきゃいけないことだと思います。両立していった上で、高い位置にどんどん来たらもっと悩みが出てくると思いますが、それを解決する策は、たぶん無いんだと思います。いろんな選択肢がある中でどれをチョイスするか、責任を持ってだれがやるのかをはっきりするだけでぼくは良いと思います。
-ベストは難しいかもしれないが、ベターを選択したときに、起こり得るマイナスを受け止められる組織でなければいけないと。そのマイナスが選手たちにいかないように、という体制を整えることが組織に求められているのかもしれません。

-アンダーハンドとオーバーハンドが混ざってもいいのでは、と言う話がありました。
高平選手
ぼくは思っていましたが、スタッフ陣が思っているかはわかりません。ただ、中にいる選手に関しては、オーバーのほうがもっとタイム出るだろうと思っている選手もいるかもしれないし、それは本当に人それぞれなので。両方メリット・デメリットある中で、日本としてはアンダーで行きますと言っているので、その中で考え受け入れるしか無い。
今年の世界陸上では、イギリスのほうがバトンが速かったと思うんです。アンダーであのオーバーに勝つにはどうすればいいかと考えるんじゃダメだと思います。そういう話じゃない。結果的に、バトンを一番速く運べたところが速い、という考えを大事にしなければならない。この区間はバトンが遅かったからどうこうしよう、という時代は終わると思いますね。それよりも一人ずつが走ることのウェイトが大きいわけであって、そこをどうやって速く走るかということに注力するようになれば、バトンがどちらでもかまわないじゃないか、となっていくのが、将来的な目標になっていくと思います。
今は、劣った走力をバトンで解決して勝つから楽しいというのがありますが、そういう時代は終わると思います。個人の走力でどこまでいけるか。どちらのバトンパスを選んでもかまわないということにしなければならない。どっちでやったってぼくは変わらないと思うんですよね。どちらにしても、はっきり言ってセンスを問われる。苦手な選手は苦手ですし、藤光(謙司)選手みたいになんでも無難にこなしてくれる選手もいる。選手の個々の能力だと思うので、うまく活かせることを考えることが、日本チームの強みだと思います。
アメリカやジャマイカは、この選手はここがうまいからこの走順、というのは考えていないと思いますので(笑)。そこを脅かせられるようなレースをできるんだったら、どちらでもぼくは良いと思いますね。
-アンダーは突き詰めるところまできているので、より個人の走力にフォーカスされる時代になってくるということですね。日本選手に共通して、レベルアップが必要なポイントはどこにあると感じられますか。
高平選手
ぼくもそうでしたけど、世界の舞台で勝負できる力ですね。いくら速くてもあそこで勝負できなきゃ話にならない。100mの9秒台って、世界選手権やオリンピックで戦う上では、ある意味いらないんです。あの場ではだれでも持っているので。持っているステータスがあるに越したこと無いんでしょうけど、勝負をするということに関しては、9秒台をもっていても10秒1かかるなら話にならないですし。勝負の勘や勝負の仕方みたいなのがもっと磨かれるべきではないのかなと。リレーであれだけ勝負できる勘があるのに、なんで個人では生まれないのかというのを考えていくべきなのかなとは思いますよね。
-リレーではできるが個人ではできない、その要因を科学的に解析する動きはあるんでしょうか。
高平選手
あまり注力している感じはないですよね。意見する人は何人かいらっしゃるんでしょうけど、なんで個人だとダメかというのはそもそも注力している部分ではないかもしれないですね。
-試合のスケジュールなど、環境という要素は合ったりするんでしょうか。
高平選手
ゼロではない思いますが。
-大きなパイを占めている問題ではないでしょうか。
高平選手
強ければ関係ない、というのが正しいですね。いろんな要素が絡みすぎてはいますけど、ケンブリッジ選手や山縣(亮太)選手は(試合を)選べると思うんですよ。でも学生は必ずインカレに出なければいけないですし、そこをどうでもいいですといえる大学ほぼ無いと思うんですよね。必ずこの試合に出なければいけない、というのは海外とは違うと思うので。日本にいなければいけないわけですから。
-今後そこを越えてくる選手が出てくるかもしれません。
高平選手
学生の強い選手が一番大変なんですよ。世界大会もある、インカレもある、今年はユニバーシアードもある。全部出てたら自分のレースがどこにあるかわからないよね、というくらいにレースを組まれた状態になってしまう。ただ、各レースが選考会になっているというのは、一つ難しいところではあります。だからこそ去年、標準記録突破していれば日本選手権前に代表が決まるとか、いろんなことを政策としてやってくれている部分はありますけど、それも種目によって全然レベルが違うので。
いろんな状況があるのは確かなんですけど、選手がどうやって受け入れて自分のコーチと話していくか、組織としてやってあげることができるか、どこに目標を置いてやるのかというのことを、みんなの考えが一致していないといけないと思います。

-高平選手のセカンドキャリアという点についてもお伺いしたいと思います。
高平選手
2020年までは、今求められている仕事がすでに始まっているので、自分がどんなふうに活用されるのか、協力できるのかを模索しながらいこうとは思っています。3年間はいろんなことに走り続けるしか無いのかなと考えています。
夢としては、陸上競技選手が稼げるようにしていきたい、という想いがあります。陸連・学連・会社にお世話になりながら、経験させていただいたキャリアがある上で、いろんな場面で還元できる立場にいたいなとは思いますね。どちらかというとコーチングというよりかはマネジメントへの想いが強いです。また、今、パラ陸上にも関わらせてもらっているんで、自分が知らないところで経験させてもらえることが大きいと思っているので、それがその後に活かせられれば、と思いますね。
-最後に、間近に控える引退レース、どのように終えられたいと考えてらっしゃいますか。
高平選手
そうですね、はっきり言ってその先の目標があるレースではないですけど、それはやっぱりメダルを獲ってみて自分が大事だなと思っていることの一つとして、一人でも多くの人がぼくが走るのを観て、なにか感情が湧き出ることがあるというな走りを魅せられるようにがんばりたいなとは思っています。
-具体的な目標タイムは置かれていますか。
高平選手
4継しか出ないので。別に3走の前に座っていただかなくてもいいですが(笑)、最後だっていうのを理解していただければ、それでいいかなと思います。最後だからどうってことで走ろうとは思っていないので。ただ、世界陸上での(ウサイン・)ボルトを観て、絶対に肉離れしないように心がけようと思っていますけどね(笑)。
-鮮烈すぎる引退劇になってしまいますね(笑)。
高平選手
流行りになっても困るので(笑)。そういうふうにしないようにだけは頑張ろうと思っています。
-高平選手の最後のレース、多くの方が楽しみにされていると思います。今日は本当にありがとうございました。

全4回にわたる高平選手のインタビュー、いかがでしたか。一選手の枠を越えた視界で短距離界を見てらっしゃる高平選手。第一線は退いても、短距離界のみならず陸上界全体のステップアップに貢献していく セカンドキャリアに、期待が集まります。短距離界の一つの時代を切り開いたその走りも、いよいよ見納めとなります。ラストレース、必見です。
高平選手、お忙しい中お時間いただきありがとうございました!




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