【桐生祥秀選手】2017年インタビューPart.1:リオ五輪、個人とリレーで見た景色。

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リオ五輪の4×100mRで、3走の桐生選手は圧巻の走りを見せました。一つ外側には、アジア出身選手初の9秒台をマークした蘇 炳添(スービンチャン・中国)選手、一つ内側には100m世界歴代2位で2007年世界選手権100m・200m覇者のタイソン・ゲイ選手(アメリカ)。彼らを相手に回しながら、アンカーのケンブリッジ・飛鳥選手にトップでバトンをつなぐ会心の走り。改めて日本中、世界中にその速さを知らしめました。
あれから8ヶ月、いよいよ2017シーズンが開幕。すでにシーズン・インした桐生選手は、初戦から10.04(+1.8)をマーク。いよいよ「大台」への突入が現実のものとなりそうです。
シーズンイン直前、桐生選手へのロングインタビューを実施。リオからロンドンへ、桐生選手のポスト・リオ五輪シーズンから東京までの戦略に迫りました。
(2017年2月17日東洋大学川越キャンパスにて)


–五輪が終わって半年ほど経ちました。環境は落ち着いてきたでしょうか。

桐生選手
そうですね、今は練習に集中できています。合宿に行って、シーズンに向けて違う気持ちで入っていかなきゃいけない時期ですね。
-集中力も日々日々高まってきている状況でしょうか。
桐生選手
合宿で来週からオーストラリアに行きます。合宿の楽しさもあって、集中というよりかは、気分転換じゃないですけど、暖かいところでじっくりやっていこうみたいな感じです。
-何度も聞かれたでしょうが…、あえて五輪についてお聞きします。まずは個人の100mについてですが、残念ながら予選落ち。レース後のインタビューでは「楽しかった」という言葉を残されていたのが印象的でした。ただ、「楽しい」というのは我々外野が想像する意味とは違うんじゃないかと思うのですが、文字通りにとっていいのでしょうか。
桐生選手
ちょっと違う意味ですね。嬉しさではなく、世界の舞台を味わってみて、こういう世界があるんだと知りましたし、スタートを重視したシーズンだったんですけど、(同じ組に)ウサイン・ボルト選手がいて、後半じゃ勝てないっていうのもあって、スタートがより一層焦ってしまって自分のレースができませんでした。それを踏まえて、自分には足りないもの、どこが良くてどこが足りないのか、そういうものが全部わかったので、次からのシーズンが楽しみになったというか。それを乗り越えたらまた強くなれるという、そういう意味を踏まえて(の発言)。言葉足らずだったんですけど。みんなが思っているような、予選走って負けたけど楽しい、とかそういうことではなくて、次に行く課題を見つけられた、そういう感じですね。
-それが一本のレースでわかってしまう、というのがトップアスリートならではの世界ですね。
桐生選手
一本なんですけど、僕らはその一本一本に競技人生全てをかけているので。
-ボルト選手がいたということで、雰囲気が違うレースだったと思います。ボルト選手が発する圧なのか、観客の雰囲気なのか、なんだったんでしょうか。
桐生選手
本人からというよりは観客です。ボルト選手が出ない組を見ていると、盛り上がってはいるんですけど、静かなんですよ。ボルト選手と一緒になると、オンユアマークからスタートまで、静かにならないんですよ、ずっと。他の組の2,3倍くらいずっと観客の声が大きくて、一人の存在によってこんなに会場が変わるんだと思いました。前の組までは「オリンピックと言っても予選は静かなもんだな」って見ていたら、ボルト選手と一緒の組になると、すごいんですよ。そういう違いは感じましたね。
-当初は五輪であっても普段通りの走りができると想定されていたと思うんですけど、いざ走り出してみるとそうではなかったと。
桐生選手
シーズン前にアメリカに行ったときにもスタートに苦手意識がありすぎて、前半だけに特化して自分の大事な部分を失っていた部分があって。でも、急に変えるわけにはいかないんで、五輪はスタートを重視したその体制でいきました。
-レースが終わった直後、思うような結果を残せなかった中で、打ちのめされた部分があったのか、すぐに前を向いたのか、どういったお気持ちだったんでしょうか。
桐生選手
どっちもですかね。どっちかっていうわけじゃないです。悔しさもあったんですけど、リレーもメンバーに選ばれていることもあって、落ち込んでいるだけで、リレーで走れないと駄目ですし。どっちの気持ちもあったんですけど、選んでもらったからには、しかも良いメンバーで良い状態で、そこでいいレースをしなきゃいけないというのもあったので、気持ちは無理矢理にでもリレーに向けていました。
-リレーに向けて、意識的に切り替えたということですね。周りから声をかけられたことがプラスになったということは。
桐生選手
陸上は個人のレースなので、個人で気持ちを整理していましたね。
-桐生選手は、テンションを非常に大事にされていることをお聞きしています。リレーの予選では、テンションは上がった状態まで持ってこれていたのでしょうか。
桐生選手
はい、いい感じに持ってこれました。
-ジャマイカ、トリニダード・トバゴと同組を、日本新記録となる37.68で一位通過しました。どのように振り返られてらっしゃいますか。
桐生選手
正直、予選の走りはあまり覚えていないんです。決勝しか覚えてなくて。一着でゴールしたんですけど、やっぱりジャマイカはボルト選手も出ていなかったので、あの一着は一着とは思っていなかったですね。決勝のための通過点でした。
-日本新記録も、出るだろうくらいの気持ちだったんでしょうか。
桐生選手
そうですね。
-バトンパスとしてはかなり余裕を持っていたと思うんですけど、かなり詰まっていました。
桐生選手
ケンブリッジさんとのバトンパスは、練習でも渡せてはいるんですけど詰まっていて。予選でもやっぱり詰まったなと。
-決勝では、2→3走の間で1/4足長、3→4走の間で1/2足長、伸ばしたと聞いています。7~14cmくらいの違いですけど、目で見てわかるのでしょうか。
桐生選手
伸ばした距離っていうのは、たぶんどっちでも良かったんですよ。心の持ちようとして、一足長は遠い。でも、予選で詰まっていたから少し遠ざけるという。心の問題だから1/2足長であって。正直見た感じだと僕らもわからないです。でも、心持ちとしては伸ばしたと。心の差なんです。
-決勝での飯塚選手からのパスは、ほぼ完ぺきだったと思います。
桐生選手
気持ちももちろん上げていきましたし、予選と同じだと追いつかれると思っていました。飯塚さんも200mの選手なので、後半落ちないというのはわかっていましたし。いつも大学のレースでは(前の走者が)追いつかないって心配があるんで、なかなか思いっきり出られないんですけど、やっぱりああいう舞台だからこそ思いっきり出られますよね。
-桐生選手がリレーで思いっきり出られるというのは、日本代表チームだけ、ということでしょうか。
桐生選手
そうですね、今は日本代表だけです。
-逆に日本代表チームだからこそ、ご自身本来の持っている力を全て発揮できる環境にあるということも言えるわけですよね。
桐生選手
そうなんですよね、久々すぎて、大学のレース感覚で代表に行くと、最初は遅れたりするんですよ。だんだん慣れてきて、代表に慣れていくといいんですけど、やっぱり大学でちょっとゆっくり出ちゃうクセがついちゃって、練習で直していくんです。
-本番・練習を通して、代表チームはまったくバトンミスがないという話を聞いたことがあります。
桐生選手
本当に、渡らない、っていうことが無くて。少し詰まったな、っていうのはあるんですけど、それでもすごく詰まったとかではなくて、まだ伸ばせる余裕があるなとか、そういう感じだったので、バトンに不安はなかったですね。
-中高生のように毎日練習しているチームでも、バトンミスはあります。日本代表チームという、顔を合わせる機会が少ないメンバーが集ってミスが起きないというのは、どういった理由なんでしょうか。
桐生選手
走力がバラバラだとタイミングがずれるんですけど、走力がみんな一緒くらいなので、だいたい走っていてどんな感じかわかるんですよね。
-一緒に走る回数は少なくても、これくらいで行けば渡るという確信がある、ということでしょうか。
桐生選手
代表だと一本一本が集中していくんで。中高生だとどうしても、この一本をミスしたところで「毎日やるから」「明日があるから大丈夫だ」となってしまう部分があると思うんですけど、代表だとバトン練習って合宿中でも一回とかしか無いんで。ここを逃すとバトン練習できないというのもありますし。一本一本の集中は全然違います。
-一回のバトン練習での密度が全く違そうですね。
桐生選手
やっぱり、この練習をしくじっても、明日やろうということができないので。リオ五輪前も、山梨での合宿でミスしたら、次の練習はアメリカとかリオとかじゃないとできないので。一本一本の集中力が違いますね。
-コーチ陣からは具体的な指示があるわけではなく、ヒントだけが出されるそうですね。どのような内容なのでしょうか。
桐生選手
何年分かのデータをもとに、今年は腕の位置がオーバーとアンダーの間くらいの位置になっています。バトンを渡した時に、「まだもうちょっといけるな」「まだ大丈夫」「まだ余裕あるな」とか選手側に考えさせるようなアドバイスをもらっています。
-具体的に、「何足長伸ばそう」とか「ここまで腕を上げよう」とかいう話ではないと。
桐生選手
終わった後に選手同士で話して、「まだ僕いけますよ、飯塚さんどうですか」「おれもまだいけるよ」みたいに考えて、コーチに「もう少し伸ばそうと思うんですけどどうですか」と話をして、「うん、いいと思うよ」と。そういう感じですね。
-データは参考にしつつも、最終的には互いの感覚とコミュニケーションで、互いの間隔が決まっていくんですね。

-ケンブリッジ選手にバトンを渡された瞬間、というのは覚えてらっしゃいますか。
桐生選手
僕とケンブリッジさん、(バトンパスが)詰まってるんですよ(笑)。決勝でもまだ詰まってる。「うわー詰まった」と。だけどいい位置で渡せたかなと思います。
-映像を見ると、バトンを渡した後に桐生選手は雄叫びをあげています。どういった気持ちが現れての叫びだったんでしょうか。
桐生選手
あのままのテンションですね。どういう言葉かはよくわからないんですけど、あの時は必死だったんであまり覚えてないです。あの時のありのままを表現した、という感じです。
-決勝のレース、目指していたのは金メダルだったんでしょうか。
桐生選手
メダルは目指していましたが、どっちかっていうとタイムを上げないといけないなと。予選ではジャマイカもアメリカもフランスもイギリスも全部、エースが出てないんですよ。予選のタイムで満足せずにもっと上を目指さないとメダルが獲れない。予選でみんな(バトンが)キツキツだったので、そこに各国にエースが加わってタイムを上げてくるから、僕らも上げていかなきゃだめだと。その中で、もちろんメダルを狙っていましたけど、自分としては邪念はなくして、自分の走りをするっていうのを考えていましたね。
-三走には、アメリカはタイソン・ゲイ選手、中国は蘇 炳添(スービンチャン)選手という強敵がいたことは、メンタル面に影響はありましたか。
桐生選手
蘇 炳添選手の方がベストタイムは上ですが、抜く自信がありました。抜いたら、すごくいい位置でケンブリッジさんにバトンを渡せると思っていたんで。いい意味でターゲットにしながら走っていました。
-会心の走りだったでしょうか。
桐生選手
いい感じにバトンがつながって、スピードに乗れたなという感じですね。
-はじめてのオリンピック、ご自身としてはどのように総括されてらっしゃいますか。
桐生選手
やっぱり、リレーであれだけ走れたんで、過信するわけじゃないですけど、100mももっともっとベストタイム以上に走れると思っています。ああいうレースを個人でやればもっともっと上にいけると思っているんで、今後の取組をいろいろ変えていく上でのヒントになりましたね。
-ご自身がまだまだ成長できる実感を持たれたレースだったんですね。

リレー決勝で伸ばした、わずか1/2足長の秘密。ギリギリの領域で戦うトップアスリートにとって、ほんのわずかな違いがメンタルにプラスにもマイナスにも作用することがうかがわれました。
個人レースでは予選敗退しながら、多くの学びを得た桐生選手。それが形になるであろう、2017年。世界の大舞台で、実力を存分に発揮することが期待されます。
Part.2では、桐生選手自身に2016年シーズンの走りを解説いただきます。大台突入の期待がかかる織田記念当日、29日(土)に公開予定。ご期待下さい!




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