【桐生祥秀選手】2017年インタビューPart.2:2016年の4レースをセルフ解説

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Part.1ではリオ五輪を振り返っていただいた桐生選手。Part.2では、ご自身に2016年シーズンの走りを解説いただきます。3年ぶりの自己ベストタイとなる10.01を筆頭に、ポイントとなるレースを4つピックアップ。特に注目いただきたいのは、最後に紹介する、リオ五輪後初のレースとなった日本インカレでの走り。2016年バージョンから2017年バージョンへ。桐生選手のビフォアアフターが見えてきます。


-まずは、10.01(+1.8)を出された6月の日本学生個人選手権のレースを振返りたいと思います。
ご自身二回目の10.01ですが、初めて出されたときとはまったく内容が違ったのではないでしょうか。

桐生選手
スタートに特化した昨シーズンに発揮できる、最高のパフォーマンスのレースだったと思います。
-昨年目指していた姿の完成形、でしょうか。
桐生選手
ええ、やっぱりいい感じだとは思いますね。(2016年のレースの組立は)前半がうまいこといかないと、最後までいかないっていう、危険な賭けではあるんですね。
-桐生選手は、前半30mを大事にされているというお話がありましたね。ゴールされた時はどんなお気持ちだったんですか。
桐生選手
ミスったというか(笑)、「また10.01か」という気持ちでしたね。
-ミスったというのは、9秒台を出してしまえればよかったな、ということでしょうか。
桐生選手
そうですね。
-スタートから抜け出したレースでした。
桐生選手
これはリズムで走れているんです。前半いいリズムでいかないと後半伸びないので。
-前半がハマらないと、後半もガタガタといってしまう、危険な賭けだと。
桐生選手
そうですね、やはり(失敗レースでは)前半にエネルギーを使っている部分があります。
-それが後で説明いただく、日本インカレでの新たな走りで解消されてきているんでしょうか。
桐生選手
日本インカレも自分としてはうまくいったとは思っていないんです。初めてやった走りなので、前半はすごい脚がモタモタしていましたし、後半は後半で腕がついていかなかったというのもあります。
-日本インカレで取り組まれた走りが、現在も取り組まれている走り、ということでよろしいのでしょうか。
桐生選手
ほぼ一緒ですね。冬季練習を消化していく内に違ってきた部分もありますが、課題は一緒です。今の走りは混合みたいなかんじですね。
-昨年の冬季練習では、「タータンは走っていない」という話がありました。
桐生選手
今年は、去年よりは多くタータンを走っていますね。やっぱりスピードを維持したいからです。坂とか芝生も走っていて、いろんな地面を走る練習をしています。
-いろんな地面を走ることで、どういった課題が解消できることなのでしょうか。
桐生選手
芝生だとダメージが少ないですし、坂だと坂ダッシュでだけ味わえる走り方があります。そして、タータンは試合で走る場所。走りのタイミングも違ってきます。
-芝生や坂で得た力を、タータンでテストするような。
桐生選手
そうですね。

-続いて、8月のリオ五輪100m個人の予選レースを解説いただきます。

※動画は0:30から

桐生選手
焦り過ぎて、スタートでつまずいてしまって。そこから先はもう、というレースでした。

-最後は日ごろ見ないような、いっぱいいっぱいの走りという印象です。

桐生選手
やっぱり前半に(力を)使い切ってしまいました。

-最後の70mからゴールにかけて、上体が前後にブレるような形になったように思いますが、それは力みからでしょうか?

桐生選手
力みというよりは、上半身と下半身のバランスの問題です。やはりどうしても上半身が薄すぎた、足りてなかったこともあると思います。抱え込むような走りになっちゃったというのもありますね。

-現在取り組まれている走りというのは、スタートでは以前よりは前に出ない走りかと思います。メンタル的にも余裕をもって、先行される展開になっても取り戻せる走りになってきてるのでしょうか。

桐生選手
元々の走りに戻すわけではないですが、どちらかと言うとスタートは苦手で中盤から終盤型です。欠けてるところを直すのではなくて、得意な所を伸ばしていく方向に行っています。戻した意識はないですが、やはり得意な部分を出していきたいなと思います。

-では3つ目のレースは、リオ五輪のリレー決勝の走りです。

-山縣選手がスタートした場面は、桐生選手からも見えていたかと思いますが、バトンが来るまではどういった気分なんですか。
桐生選手
僕、一走を見ないんですよ。レースを見始めたのは一走から二走のバトンパス付近からですね。
-どのように走りを振り返られていますか。
桐生選手
練習でもないくらい、絶好の位置でバトンが渡ってきました。ちょうど加速の局面で受け取ったんです。いつバトンをもらったのかあまり覚えてないんですけど。
-あまりにスムーズすぎて。
桐生選手
はい、(バトンを受けるために手を)上げている時間は短かったと思います。
-腕を上げている時間は短く、すこしでも早くランニング動作に移れることがポイントなわけですね。外側のレーンには、中国の蘇炳添(スー・ビンチャン)選手、内側にはアメリカのタイソン・ゲイ選手がいました。
桐生選手
もう蘇炳添選手を抜くことしか考えていないです。そこしか見えてなかったです。
-否が応でも、映像を目にする機会が多かったレースかと思います。
桐生選手
自分でというより、テレビ番組などで見ることが多かったですね(笑)。
-トラックを離れると、陸上の動画を見ることはしていないとお話されていました。それは、今も変わらずでしょうか。
桐生選手
今も全く無いですね。去年のレースを見ても、「今と走り方違うな」って思うくらいです。
-プラスにはならない、と
桐生選手
プラスかマイナスかというより、基本動画を観ない性格なので。観たほうが良いと言われることもあるんですけどね。
-ウェイトトレーニングの成果で、上体が安定してきていると聞いています。その後のトレーニングで、さらに安定感が増してきているのでしょうか。
桐生選手
バランス良く鍛えて、体重も重くなってる分、脂肪は減っているんで、いい感じで来ていると思います。
-肉体的にはどの部分が変わってきていますか。
桐生選手
胸筋から腕、首も太くなっています。
-リレーメンバー3人も、ウェイトをかなり取り組まれています。なにか影響を受けたりしていますか。
桐生選手
3人がどんなウェイトトレーニングをしているか知らないんです。影響というのは、あまりわからないですね。ベンチプレスとかは、徐々に重くしていきたいので、いきなりドンと重いものにいくよりは、徐々に。夏には重いのあげたいなと思いますね。

-最後に、リオ五輪後初のレースとなった、9月の日本インカレ100mを解説いただけますか。今回、特にお話を聞きたかったレースです。フォームが大きく変わり、後半のスピードが落ちないレース構成へと変貌を遂げました。

桐生選手
(予選のレースを観ながら)スタートを抑えめにいったわけではないんです。オリンピックが終わってから、この部分を練習しようと決めて臨んだわけでなく、気持ちだけで変えて臨んだんです。このとき、オリンピックの時とスパイクが違うんですよ。オリンピックが終わってから初めて(オーダーメイドのシューズが)できたので。
-どういった変更を加えられたんでしょうか。
桐生選手
スパイクのプレートがまず違います。ちょっと硬くなっていて、ピンの配置も自分で決めました。それまでは既製品を使っていたんです。走り方的には、これまでは最初の三歩を重視しすぎていて、後半で疲れたようなところがあって。そこで、どういう走り方をしたら後半伸びるかなと考えました。予選・準決・決勝と走りを変えているんですよ。この日の予選の走り方は、それまで練習でも一切試したことはありません。僕、本番でしかレースと同じように走ることができないんで。
-本番でテンションが上がる、というお話ですね。
桐生選手
ええ。本番で試そうと思っていて。腕をいつもより下で振ってみて、脚を前に出してみたんです。そしたら歩幅が大きくなったんですけど、ちょっとパワーが足りないなと。この時はオリンピックが終わったばかりで筋トレもしていなくて、パワーも足りないですし、脚の軌道も上で回りすぎていたんで、あまりうまいこといかなかったですね。
-それまでよりも、膝が高く上がっていると感じました。
桐生選手
そうですね。ここらへん(80m以降)は腕がついてきてないですね。腕のパワーアップもしていなかったので、筋力的にもちょっと足りなかった。でも、こういう走り方をしていって、どんな感じかなと色々試して、「あ、これくらい(記録が)出るんだな」と(見えてきた)。そこから今年の冬季にやることも決まっていきました。
-さきほど、ウェイトトレーニングに取り組み始めた、という話がありました。「見えてきた課題に対して、まずここをやってみよう」とアプローチしている、と。
桐生選手
一年一年、練習内容は変えています。去年のオリンピックシーズンは、筋力をつけていなくて、全く補強系(のトレーニング)もせずにいって、どんな感じのレースになるかというのを一年試してみて。その中で、「ここがやっぱ足りないな」という点はシーズン中にもいくつかあったんですけど、やっぱり足りないなと思った瞬間に筋トレをしたら、その期間が無駄になっちゃうんですよね。どんなことがあろうとも、一年間は(ウェイトトレーニングを)しないと決めていました。そうした中で、「中盤伸びるためにはこの部分のパワーがもっといるな」とかわかってきて。走ってみて、最後やっぱり腕がもつれるような、下半身に対して上半身が細すぎるのがいけないんだな、と見えてきました。色々と見えた年でしたね。そんなことをオリンピックの年にやるのは変だ、と言われることはありましたが、オリンピックの年であっても、そうしたアプローチをやれるのは大学生のうちしか無いなと思って。
-見据えているゴールが、もっと先にあるということですね。
桐生選手
そうですね、今21歳で、現役は31歳か32歳か、もしかしたら28歳とかだとしても、まだあと7年あるから、その中での一年は(チャレンジをしても)いいかなと。この一年はこれまでと違うことをしようと決めていました。ウェイトトレーニングはせずにジャンプ系のトレーニングでパワーアップしていったんですけど、やっぱりちょっと限界というか、腕とかどうしても細くなっちゃって、話したようにもつれたりしていました。
-他には坂道ダッシュ、メディシンボールスローなどに取り組まれてらっしゃった、と聞きました。しかし、最大パワーをつけようと思うと、どうしても足りない部分が出てきてしまうと。
桐生選手
それを踏まえて、今年はちょっと、坂ダッシュやジャンプ系もやっているんですけど、混合した練習みたいになっています。
-ウェイトトレーニングは、週にどれくらい取り組まれてらっしゃるものなんでしょうか。
桐生選手
週3回とかなんですけど、練習終わりじゃなくて、ウォーミングアップでウェイトトレーニングをやるんです。10:00から練習なんですけど、9:30くらいから体操したらすぐ、ウェイトに入る。最初はそんな重くないところから始めるんですよ。30分で終わらせてから練習に入ってます。
-一般的には逆の順序ですよね。練習終わり、またはウェイトだけやる日を設ける場合が多いと思います。最初にウェイトをやる、その理由を教えていただけますか。
桐生選手
練習後に重いのに取り組むのは、週1回あるかどうかなんですね。練習前に軽い負荷でやるのは、筋肉の使いたい部分に刺激を入れて、そこからアップをして走ることでケガ防止にも繋がるからです。急に重いのを持つと、筋肉がすぐについてしまうんですね、やればやるほど。だから軽いのからはじめて、徐々に筋力をつけていって、自分の体に合わせていくというやりかたです。
-長期スパンでメニューを増やしていく、今期だけではなく先を見据えた取組みなわけですね。
桐生選手
練習の流れが、冬季とシーズンとでは違うので、シーズンに入ったら今言ったこととは違って練習終わりにウェイトをやっているかもしれないですけど(笑)。でも実際、この一ヶ月やっているのは、ウェイトをやってからアップに入るってやりかたですね。
-桐生選手は、与えられたメニューをやるのではなく、ご自身と対話しながら自分で課題を設定して、実験を繰り返していく方なんだなと感じます。そうしたアプローチの源には、母校・洛南高校という存在が大きいのでしょうか。
桐生選手
高校の時は幅跳びの先生、中学校のときに教えてもらっていた先生は長距離の先生でした。偶然ですが、どちらも短距離は専門外の先生だったんです。短距離とは違った視点からのヒントをもらいながら、トレーニングできたというのが大きかったです。
-ご自身を”実験台”にしながら試行錯誤していくトレーニングは、やはりしっくりくるものでしょうか。
桐生選手
なんだか楽しいんですよね。自分で色々試すのが好きなんですよ。もちろんそれがタイムに関わってこないと陸上選手としてはだめなんですけど、フォームもずっと一緒だと飽きちゃうというか、変えていきたいなというのがあります。最終的には自分で(理想の走りを)見つけたいんで、どんどん変えていって、「先生これどうですか」「先生このフォームどうですか」って、アドバイスをもらって、いろいろやっていくのが楽しいので。
-土江先生ともそうした関係であることが伝わってきます。

最新の桐生選手の走りは、大きな動きでダイナミックさが増しています。そうした走りを実現するためのウェイトトレーニングについても解説いただきました。10.01をマークしたといっても、それはすでに過去の走り。桐生選手が見据える走りは、次のステージに移行しました。2017年仕様のランニングフォームで理想の走りが実現した時、「大台」到達が果たされることになるでしょう。
Part.3では、リオ五輪前後で桐生選手におとずれた変化について語っていただきます。テニスの錦織圭選手との接点や、節目で買うことに決めている「あるモノ」を、リオ五輪後にも購入したことなどお話いただきます。




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