【大前祐介さん】インタビューPart.2 -陸上界からスポーツ界を変える-

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200m日本ジュニア記録保持者・大前祐介さんへのインタビューPart.2は、「大前コーチ」の姿に迫ります。日本人選手のウェイトトレーニングの必要性を強く説かれます。そして、2016年日本選手権100mチャンピオン・ケンブリッジ飛鳥選手(ドーム)へのコーチングの極意とは。そこには、現役時代にケガに泣かされ続けた、大前さんの想いが強く込められていました。


-ケンブリッジ選手との出会いについて、何度も聞かれているとは思うのですが、教えていただけるでしょうか。

大前さん
経緯としては、僕がドームのプロモーション担当をしていたタイミングで、日大にお邪魔することが多くて。そこでたまたま、彼がジャマイカでのトレーニングから帰ってきたタイミングに、「ドームアスリートハウス(DAH)でトレーニングしてみない?」という話をしました。そこからDAHでトレーニングするようになった、というところですね。その翌年、桐生(祥秀・東洋大)選手に勝ったり(2015年織田記念100m)、彼自身もうまくハマったのかなと。そういう経緯があって、ドームに所属して、選手として活動するというところに至ったということです。
-初めて会った時、ケンブリッジ選手のどんなところに惹かれましたか。
大前さん
ぼく、彼の走りが好きなタイプなんですよ。個人的ですけどね(笑)。いい走りしているなと思ったのと同時に、すごくもったいないなとも感じました。この選手だったら速くできるだろうな、アドバイスできるだろうな、というのを感じながらでしたね。
-先日、公開取材の際にケンブリッジ選手には「自分を反面教師にしてもらって」という言葉がありました。
大前さん
ここまで話した歴史の部分を、反面教師にしてもらいたいです。運が無いとか、ケガするとか、そういうところを一つ一つ無くしていけば、絶対に結果は出てくると思います。運に恵まれる確率も上がると思っているんですよ。僕自身のやってきたことを、いいところはいいところで拾ってほしいし、悪いところは悪いところで、いい方向に導く。コーチっていう言葉自体が「導く」っていう意味ですから。導くというだけ。引っ張ってきてもしょうがないですから、導いた中でうまくいくかな、と感じています。
-技術的に特にポイントを置いて指導されている点があれば、教えてもらえますか。
大前さん
(日大の)淵野コーチとお話させていただきながら、逆に僕がいまケンブリッジ選手のテクニックの部分を勉強している最中という感じですね。ただポイントとしてはタイミングがずれないようにとか、動作で気になる点を、ちょっとした傾きがあるとか、そうした点は話をしますけど。
-ウェイトトレーニングについてもお聞きしたいと思います。インタビューの中で、「日本人は末端も中心も細い」というお話をされています。詳しく教えていただけますか。
大前さん
筋力×スピードがパワーにつながってくる、その掛け算が成り立たないっていうことはありえません。短期的に身体を軽くすればキレが出ると思うんですよね。そういう目先の事を考えて身体を軽くするというならありかとも思うんですけど、それ以上にいろいろと考えてやると、身体を軽くするのは良くないなと。シーズン中にウェイトトレーニングをしないだとか、食事制限するとか、ありえないというのがぼくの考えです。お腹すいた状態でレースに出るな、っていう話ですよね。
-海外で転戦すると痩せて帰ってくる、という選手もいるかと思います。
大前さん
僕自身がそうでした。食べられなくて。結局日本人って環境が変わることに慣れていないから、自分のルーティーン外のことが発生すると力を発揮できないんですよね。内弁慶だと思うんですよ。劣悪な環境でトレーニングしているジャマイカの選手なんか、芝生で練習しているわけです。そんな状況でもいざレースでトラックに出てくると、どんな状況でも9秒で走る。そういうタフさが日本人には無いかなと思います。自分がいちばん力を発揮できる状況にしようとしすぎるのかな、と。いい面でもあると思うんですけど、居心地のいいところにいようとしすぎるのかな、というのはポイントかと思います。だからこそ、トレーニングをしないってことが起きると思うんですよね。手間も時間もかかるし、体も痛くなる。
-自分でやらなければならない、専門の人もいないから、と。
大前さん
結局今までやってきたことを、なんとなく繰り返し繰り返しやる、みたいなことしかできない。でも、間違っているかどうかもわからないですよね。
-だれも証明できていない。
大前さん
そうです。淵野先生も以前おっしゃっていましたけど、「これからの時代は分業制だよ」と。ちゃんとしたスキルコーチがいて、リカバリーがいて、メディカル部門がいて、アナライザーがいて、はじめてちゃんとした選手になる。F1ですよね。いろんな担当のメカニックたちがいて、集まって自分のチームのF1マシンが走れるようにしていくと。
-これが10年前だと二人三脚での取り組み、というのがトップ選手のコーチングというイメージがありますが、現代はチームになっていると。
大前さん
そうですね。1対チームですよね。
-ケンブリッジ選手に対しても、「チーム」で戦っていくスタイルを前提にスタートされているんですね。
大前さん
分業という言い方が正しいかはわからないですけど、情報をシェアしながら、選手がハブになった状態でしっかりつながっている状態ですね。

-ケンブリッジ選手が目指す具体的な記録・結果について、教えていただきたいと思っています。
大前さん
僕自身の希望的なところもありますけど、東京オリンピック、その次のオリンピックでいい色のメダル、もしくはいちばんいいところに立てるようにしたいと思っています。具体的には、100mだったら9秒8を切るレベル。それだけじゃなくて200mもしっかり走って、200mでもその二倍くらいの19.5とか6とかで走れば、いい色のメダルに届く確率も確実に上がりますから、そこを目標にしているというのが一つ。あともう一つが、彼を通じて、日本の陸上界のスタンダードを変えることですね。彼だけが突出しているだけじゃなくて、その他の選手も同じような取り組みをすれば、世界で通用する選手になれるんだと、彼を通じて発信する。もう少し言えば、彼であれば発信ですけど、ぼくらは啓蒙していくというところになっていくのかなと思います。そこが最終目標。陸上のスタンダードさえ変われば、他のスポーツのスタンダートも変わると思っています。やっぱり陸上がスポーツの根幹にあると思うんです。走ることは、他のスポーツに通ずるところはすごく大きいと思うんです。まずは陸上から変わるべき。彼がまず、その象徴として変わる。変えなきゃいけないと思います。
-ご自身がマスターズに取り組まれるとも聞いています。目標を教えていただけますか。「大前コーチ」ではなく、「大前選手」にお聞きしたいと思います。
大前さん
当面の目標ですけど、公認で10秒台を出すことに置いています。キム・コリンズ(セントクリストファー・ネイビス)といういいモデルケースができましたので、今から始めてもしっかり走れるようにと取り組んでいきたいです。もちろんマスターズも出ますけども、普通のレースでもチャンスがあれば頑張ろうと思います。この年齢からやって、もしかしたら自己ベスト更新できるかもしれない。そこは引き続き、自分自身の挑戦かなと思います。アプローチの方法は、走らない。週一回しか走らないんですよ。あとはウェイトトレーニングでどれだけ速くなるかっていうのを毎週毎週確認しているんです。オフの趣味ですね(笑)。仕事以外の趣味っていうのが、自分の足を早くするっていうことになっていますね。この前、ハンドウォッチで10秒台出たんですよ。「おっ!?」って思って(笑)、ちょっとびっくりしたところがあるんですけど。
-予想外のオフの過ごし方でした
大前さん
ほんとそうなんですよ。土曜日が最近オフ多いんで、午前中日大にお邪魔して、走って、自分で一つ一つ動きを確認して。
-同時に実験でもあるんでしょうか。
大前さん
実験ですね。20歳くらいで成長が止まった中で、どれだけトレーニングによる成長ができるかっていうのがポイントになってくると思うんで、それを自分自身でできるかっていうことですね。ケンブリッジが発信している部分と、もう一つの方法としてこういう取り組みを発信していけば、彼のようなポテンシャルが無くても、ゼロからスタートしてもここまでは絶対伸びるんだよっていうのを僕自身がやっていく。7年は走っていないですから。
-北京オリンピックに出場した時の朝原宣治さんは36歳でした。
大前さん
まだ3年ありますからね(笑)。東京オリンピックあるかな、出ちゃうかな(笑)
-地元・東京での開催です。
大前さん
そこに向けて、自分自身を、実験と勉強と発信するということをやっていきたいと思います。

コーチであり、選手でもある大前さん。自身をフィルターに実験と啓蒙を続け、目指す先は陸上界・スポーツ界全体のレベルアップです。確かなビジョンと、明快な語り口。高い志をひめてイノベーションを果たそうとする姿は、一人のコーチという枠を超えた存在感を放ちます
ドーム社内でゼロから立ち上げてきたチームが、陸上界・スポーツ界に激変をもたらすか。変革の中心には、ケガに泣かされ未完の大器として競技生活を終えた、大前さんがいます。

長時間の取材へのご協力、ありがとうございました!




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